地獄の鷹見さん家 4
ホークス「今日はとりあえずご飯食べて寝ちゃおう。詳しい話は明日しようね」
椿「分かりました。でも、学校が……」
ホークス「俺が連絡しておくよ。転校の手続きもしなきゃだし」
椿「ありがとうございます」
ホークス「色々準備はしておいたんだけど、今日君を連れ帰ったのは、俺自身も想定外だったんだよね。だから、まだ住む場所の用意が出来てないんだ。悪いんだけど、しばらくの間はここに住んでてくれるかな?」
椿「…………はい?」
ホークス「俺は
椿「………………」
ホークス「あー、でも、俺が使ってたベッドは嫌だよね……。今日は我慢して貰うことになるけど、明日にでも買ってきて……」
椿「ホークス、ご飯の前に、もう少しだけ話をしましょう」
ホークス「うん? 良いけど、何か気になることでもあった?」
椿「ええ、はい。それはもう存分に」
ホークス「…………え? 何か怒ってる……?」
椿「とりあえず、そこに座ってくださいます?」
ホークス「あ、はい」
椿のお説教と説得により、家を用意して貰うことは回避した。
議論の結果、同居することに。
ホークス「まさか俺が丸め込まれることになるとは……」
椿「あなたは確かに弁達者ではありますが、それ以上の頑固者には効きませんよ」
ホークス「ははは、参考になるよ……」
椿「まぁ、本気で嫌なら、私はどこへなりとも行きますけれど」
ホークス「うーん……。ぶっちゃけると、俺は自分の
椿「嫌でないなら僥倖です。まぁ、高校は地元を離れようと思っていたので、希望の高校に受かれば長くとも2年ほどの期間ですよ」
ホークス「へぇ、もう行きたい高校決まってるんだ?」
椿「はい。第一希望は雄英高校です」
ホークス「マジ? え? ヒーロー目指してるとか?」
椿「いえ、名門校のレッテルが欲しいだけです。……なりたい自分になるために」
ホークス「…………そっか」
***
ホークス「俺が公安に入ったときの交換条件の中に、“家族の生活の保障”ってあったと思うんですけど、椿の保障は契約に入ってないんスか」
目良「…………羽飼家の担当は別にいますから、詳しい事情は分かりません。ただ、幼い頃はシッターを派遣したり、学校に通えるよう書類を揃えたりして、教育環境は整えていた、と。身の回りのことが出来るようになってからは、そう言った手配はしていないようですが、十分な金銭は振り込んでいるはずだというのが担当部署の言い分です」
ホークス「保障って言葉の意味知らないんスかね。金銭だけでなく、身の安全やらも含めて護るべきだ。それを放棄しておいて、“自分たちはきちんと仕事してました?“ 契約違反もいいとこじゃないッスか」
目良「まったくもってその通りで」
ホークス「ま、もういいです。あの子は俺が保護するって決めたんで」
目良「…………子供の面倒を見るのは、簡単なことじゃないですよ」
ホークス「そんなの覚悟の上です。………あの子にも苦労させることになると思います。でも、理不尽な暴力に晒されて、満足に食事も摂れないような場所よりはマシな環境が用意できると思うんで」
目良「…………そうですか。まぁ、出来る限りは協力しますよ」
ホークス「助かります」
***
ホークス「そう言えば、小さい頃ってどんな生活送ってたの? 保育園とか幼稚園に通ってる記録無いけど」
椿「確か、5歳くらいまではシッターさんが来ていました。病んでいた母の代わりに家事をしてくれて。私はまだ幼かったから、何も出来なくて、とても助かっていました」
ホークス「…………5歳まで?」
椿「小学校に上がる直前くらいから、シッターさんは来なくなりました。なので、家のことは出来る限り私がしていました」
ホークス「…………小学生のときから?」
椿「はい。なので、家事全般はこなせます」
ホークス「椿ちゃんが家事をしていたのに、食事も貰えなかったの?」
椿「母は私がお金を使うことを嫌っていたから、食事は母の分だけを作って、残り物や給食で凌いでいました。それでも耐えられなくなったときは、何日も頼み込んでお金を貰いました」
ホークス「…………そっか」
椿「だから、今はさみしくないし、寒くもないから幸せです」
ホークス「えっ?」
椿「あったかいご飯を、お腹いっぱい食べられるし、何より一人じゃないから」
ホークス「……なら、引き取った甲斐があったよ」
***
椿「あの、ホークスに聞きたいことがあるんですけど……」
ホークス「うん? なぁに?」
椿「ホークスは家族と離れてから、どこか特殊な組織に引き取られたんでしょうか?」
ホークス「…………どうして?」
椿「実は、小さい頃から何度か、視線を感じたことがあるんです。それで、こっそり羽根を飛ばしてみたことがあるんですけど……」
ホークス「けど?」
椿「“使える”と言っているのが聞こえて、怖くなって逃げちゃいました」
ホークス「…………」
椿「私達に家を用意できて、子供に“使える”なんて言葉を使うような……。大きくて、ちょっと怖い場所。そんなイメージです」
ホークス「…………」
椿「答えなくてもいいです。私には関係の無いことだと、斬り捨ててくださっても構いません。でも、ホークスにとって、怖い場所でないことを願っています」
ホークス「…………ありがとね」
椿「いいえ。私の方こそ、助けてくれてありがとう」
***
椿「………あの、ホークス」
ホークス「んー? なぁに、椿ちゃん」
椿「………家のこと、私がしても良いですか?」
ホークス「え? 定期的にハウスキーパー入れてるし、掃除とかは大丈夫だよ?」
椿「それはそうなんですけど、ご飯とか、洗濯物とか。ホークス、外食とかデリバリーばかりですし……」
ホークス「あー……。俺はともかく、椿ちゃんは成長期だし、もうちょいきちんとしたもの食べた方が良いよね……」
椿「ホークスもだ。ヒーローは身体が資本でしょう?」
ホークス「一応、一通りの調理器具はあるけど、調味料とか何もないよ?」
椿「問題ありません。お金を出して貰わなければならないのは、心苦しいですが……」
ホークス「それこそ気にしないでよ。君を引き取るって決めたのは俺なんだし」
椿「………ホークスが手作りのご飯が嫌でなければ、私が作ってもいいでしょうか?」
ホークス「キッチンくらい自由に使っていいけど、俺がいない時に刃物とか使われるのは怖いかなぁ……」
椿「……なら、問題ないことを証明したら、刃物を使ってもいいですか?」
ホークス「ん、そうだね。明日は大きな事件が無ければ定時に上がれると思うし、帰ってきたら一緒に買い物行こうか」
椿「うん」
ホークス(あ、嬉しそう……。もしかしてこの子は、普通の家庭に憧れていたのかな……)
