君ともう一度
人はそれを逆行という
「まぶしい・・・」
そう呟いて、俺は眼を覚ます。朝の日差しが眩しくて、目がくらむ。
思わず手で光を遮った。
「あれ・・・?」
手が、小さくなっていないか?
それだけじゃない。何かが、おかしい。
俺は確か、死んだはずだ。
自分の死期を間違えるほど、俺はおろかじゃない。
「っ!ピカチュウ!」
隣にいたはずの相棒は、影も形もない。
ココが、あの世というものなのか?
小さくなった手で頭を抱える。
そして、うつむいて、気がついた。
「もしかして俺、若返ってる・・・?」
若返ってるどころか、幼くなってる。
推定5歳。幼児もいいとこじゃないですかヤダー。
――ガチャリ
「!!?」
唐突に開いた部屋のドアに驚く。
一体誰だ、と身を固くした俺は、入ってきた赤毛の女性を見て目を見開いた。
「あら、もう起きてたの?早いわねぇ」
そうほのぼのといった女性の声に、口の中が渇くのを感じた。
――ママだ。
50を前にして逝ってしまった母。もう会うことはないと、もう会えないと思っていたのに。
「~~~・・・っ!ママ・・・!」
「どうしたの?サトシ。怖い夢でも見たの?」
ママの暖かな腕に抱きしめられ、幼い両腕で必死にすがりつく。
優しく背中をなでる懐かしい感触に、涙があふれた。
一通り泣いたところで、状況を整理しよう。何で俺が生きているのか、何で幼くなっているのか。
カレンダーを見る限り、俺の予想通り5歳の時に逆戻りしている。
前世と合わせると94歳か・・・。っていうか、そもそも、あれは前世なのか?
日付が戻っているところをみると、前世って感じはしないし、何よりママがいる。
たしか、こういう逆戻り現象には、名前があったはず。何ていうんだっけ?
「あ、そうだわサトシ」
朝食の準備をするママが、俺に声をかける。
思考の海に沈んでいた意識を浮上させ、ママの声に耳を傾ける。
「今日、裏山にシンオウ地方から引っ越してくるお家があるんですって」
「え・・・?」
シンオウという言葉に、俺は思わず声を漏らす。
シンオウ地方。あいつの故郷。いや、まさか、と首を振って、前世(現象の名前がわかるまではこう呼ぶことにする)のことを思い出す。
前の世では、シンオウから引っ越してくる家なんてあったか?答えは否だ。
裏山にも家なんてなかった。見渡す限りの草原が広がっていて、俺の遊び場になっていたんだから。
まさか、あいつが引っ越してくるなんてことはないよな。
「(これ、フリな、フリ。全力で引っ越してきてほしいと思ってます、だから来て!!!)」
なんて、必死で念じている俺の心情などつゆ知らず、ママは続けた。
「何でも、育て屋さんをするためにマサラに引っ越してくるらしいの。楽しみね」
「マジでか・・・」
あ、これは知ってる。そういうの、フラグっていうんだ。
(後で挨拶に行きましょうね)
(うん!!!)