微笑みの後で
ラングレーとケニヤンはその街の宿に部屋を取った。
宿屋にもポケモンセンターと同じように電話ボックスがあり、連絡を取ることが出来る。
つい昨日、そろそろマサラに着くとの連絡を受け、サトシの実家に連絡を入れようと決めたのだ。
サトシが電話に出るのを2人で待った。
『―――――――はい、』
出たのはサトシだった。
イッシュではみなかった眩しい笑みを浮かべている。
輝く太陽のようなこの笑みが、サトシの本来の笑みなのだろう。
幸せそうに笑うサトシに、ラングレーたちも自然と笑みがあふれた。
『おお!久しぶりだな、ケニヤン!ラングレー!』
「久しぶり」
「久しぶりだな、サトシ!もう家についたのか!」
『おう!』
木で造られたらしい壁を見える。
連絡先は自宅のものを教えてもらったので、サトシの家の壁だろう。
「あら?その服は?」
『ああ、これか?俺、明日シンジとカロスに旅立つんだけど、そのためにママが用意してくれたんだ!最後の手直しをするのに着てくれって頼まれて着てるんだけど・・・似合うか?』
「ええ!よく似合ってるわ!」
「かっこいいぜ、サトシ!」
『サンキュー!』
真新しい服を見たサトシはイッシュへの未練を感じさせない。
イッシュにいたころよりもずっと生き生きとした表情をしている。
『誰と電話してるんだ?』
『!シンジ、ケニヤンとラングレーだよ』
『!あの2人か・・・』
サトシの後ろからシンジが顔をのぞかせる。
ケニヤンとラングレーを見て、シンジはうっすらとほほ笑んだ。
『久しぶりだな、2人とも』
「おう!」
「元気そうでよかったわ。ところで、その服・・・」
『・・・あっ』
サトシと色違いの上着。おそろいである。
試着していることを忘れていたらしく、自分の服を見降ろして、シンジが頬を染めた。
「相変わらずだな~」
「ホント。しばらく甘いものは食べたくないわね」
『からかうな・・・』
呆れたように肩をすくめる2人に、シンジが顔をそむける。
それを見て、サトシが微笑ましげに笑っていた。
イッシュにいたころのあの冷めたまなざしや、何もかもあきらめてしまったような悲しい色は、一切見当たらない。
それでいい。
辛いことなど、幸せの記憶で塗りつぶして忘れた方がいい。
友人の苦しむ表情など見たくない。
「(2人が幸せならそれでいいのよ)」
例え自分たちの故郷の思い出でも忘れてくれてかまわない。
そちらの方が彼らは幸せでいられる。
友人の幸せを願うのは当然のこと。
優先されるべきは思い出よりも幸福だ。
「カロス地方の旅、楽しんできてね!」
「俺も新しい地方に旅に出ようと思ってるから、旅先で出会ったらまたバトルしてくれよな!」
『おう!』
『ああ』
友人たちの幸せそうな笑顔に、ケニヤンとラングレーも嬉しそうに笑った。