微笑みの後で
ラングレーとケニヤンは、とある町のポケモンセンターにいた。
3人掛けのソファ2つとテーブルを一つ占領したアイリス・デント・カベルネ・コテツ・ベル・シューティーを遠巻きに眺めていた。
彼らはここにいない、ある人物について憤慨していた。
彼―――――――サトシがこの地を去ってしばらくが経った頃合いのことである。
「どうしてサトシが悪いのに、私たちが悪者のように扱われなきゃならないの!?」
アイリスがロビーであるにも関わらずに声を荒げる。
苛々といら立ちを隠さない口調は、センター内の空気を悪くしていた。
「確かにそうだよね、あんなにすごいトレーナーなら言ってくれればよかったのに」
「だよなぁ」
ベルとコテツが不満げに眉を寄せる。
嫌でも聞こえてくる会話にラングレーたちは眉間にしわを寄せた。
「そうよね!ロケット団も私たちが悪い、みたいなこと言ってたけど私たちは悪くないわよね!」
「悪くないよ、だってサトシがなにも教えてくれなかったのが悪いんだから」
アイリスの言葉にデントが同調する。
カベルネやシューティーも同じようにうなずいた。
「そうだよ、僕たちは自分のことを話したのに、彼は何も教えてくれなかった」
「仲間にも何も教えないなんてありえないわ」
シューティーたちも賛同に気を良くしたのか、デントたちが笑みを浮かべる。
その笑みを見て、ケニヤンが気味悪そうに首をすくめた。
ラングレーは冷めた目を向けていた。
彼らは本当に自分のことを話したのだろうか?
自分の功績を語った、ただの自慢ではなかったか?
それが定かではないが、一つだけはっきりしたことがある。
彼らはオーキドの言った通り、サトシについて何の興味も示さなかったということ。
興味を持ったらサトシのことをサトシ自身に尋ねたはずだ。
一緒にいればわかる。
サトシは自分の成績を驕るような傲慢なトレーナーではない。
自分よりも長く一緒にいるはずの彼らが何故それに気づけないのか。
「救えないわ・・・」
「だな・・・」
ラングレーの冷めた言葉に、ケニヤンは顔をしかめてうなずいた。
2人は憤慨するアイリスたちに声をかけることもなく背を向けた。
「あんな子をライバルだと認識してたなんて・・・」
心底悔しげにラングレーが吐き捨てた。
ぐちぐちとサトシへの不満を漏らす彼らは気付かない。
自分たちが着々と孤独の道を進んでいるということに。
「俺もあんな奴らを友達だと思ってたんだな・・・」
悲しげにケニヤンが呟いた。
ケニヤンは優しい。
彼らに反省の意思があったらまだやり直せるかもしれないと言って、彼らを見捨てずにここに来ることを提案したのだから。
けれども彼の信頼はあっさりと裏切られた。
彼らは自分たちが悪いなんて、これっぽっちも思っていない。
ケニヤンは落胆した。
後ろから声が聞こえる。
親しい間柄だと思っていた少年少女たちの声だ。
けれども彼らは振り返らなかった。
自分たちはもう友達でも何でもない。
ポケモンセンターの中で、嫌悪の視線にさらされた彼らの仲間だなんて思われたくない。
ケニヤンとラングレーに足早に立ち去った。
ここに2人、新たに彼らを見限ったものが増えた。
彼らが孤独になるまで、あと幾人がいるのだろうか?