期待を降ろす子供






期待を背負う子供がいた。
君ならやれると、そう言われ続けてきた少年が。
溢れてしまうほどの、抱えくれないほどの期待を背負わされた少年が。
しかしその少年は、ついに、期待を降ろす覚悟を決めた。


「次はどこに行くの?」
「う~ん・・・まだ決めてない」
「そう。じゃあ行き先が決まったら連絡するのよ?」
「分かってるよ、ママ」


赤い帽子。青い上着。黒のグローブ。
それらをすべて新しくしたサトシは、マサラタウンの出口に立っていた。
母・ハナコに見送られ、サトシは新たな旅に出ようとしている。


「新しい地方でも、ジムをめぐるんでしょう?」
「もちろん!ジムバッジを集めてリーグに出場する。リーグ優勝が俺の夢への第一歩だ!」
「ふふ、そうね。サトシ、次のリーグも・・・」
「ママ?」


頑張ってね、と続くと思われた言葉は、ハナコの口から出ることはなかった。
ゆっくりと首を振り、ハナコはサトシに微笑んだ。


「あなたはもう十分頑張ってる。頑張ってね、って言うのはおかしいわね」
「そんなこと・・・」
「サトシ、無茶をするのを当たり前だと思っちゃだめ。必要以上に頑張る必要はないの。あなたはあなたのせい一杯を出し切ればいい。周りの期待なんか気にしなくていいの。あなたが精一杯やったって胸を張れるなら、どんな結果でもかまわない。だからもう、頑張って、とは言わないわ」
「ママ・・・」
「いってらっしゃい、サトシ。何があっても、私はあなたの味方よ」


母の心からの言葉に、サトシは目頭が熱くなるのを感じた。
優しい笑みが歪み、視界がぼやけていく。
涙を流しながらも、母の愛の言葉に、サトシは笑った。


「行ってきます、ママ!」
「ぴかっちゅう!」


ピカチュウとともに手を振りながら、サトシはマサラタウンを旅立って行った。




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