トラブルトラベル






「待てー!」


サトシ、シンジ、タケシの3人は森の中の道なき道を走っていた。
彼らはとある地方にいた。
その地方に手再会したサトシとシンジが2人旅を始め、更に研修先へ向かうタケシを加え、3人で旅をしているのだ。
そんな3人が木々をかき分けて走っているのには、ちゃんとわけがある。


「俺たちの荷物返せー!!」


3人の前方にはキノガッサたちがいる。
彼らは3人の荷物を抱えて走っていた。
そう、3人は自分たちの荷物を奪われたのだ。

キノガッサ達が茂みに飛び込む。
姿が見えなくなり、キノガッサ達を見失ってしまった。


「見失った・・・!」
「どこに行ったんだ・・・?」
「!おい・・・!」


シンジの指差した方を見ると、そこには茂みの中から笠をかぶったような顔をひょっこりと見せるキノガッサがいた。
キノガッサはすぐに頭を隠し、茂みの中を走りだしたようだった。


「待てー!」
「お前が待て」


再び走り出そうとするサトシの襟を引き、シンジが止める。
転びそうになったサトシが慌てて体勢を立て直し、シンジの顔を見やった。


「何すんだよ?」
「・・・あのキノガッサ達に誘導されているように感じる。荷物がほしいならさっさと降り切ってしまえばいいものを、あいつらは立ち止まって俺たちが付いてきているか確認を取っている。本当に荷物を奪う気があるのか・・・?」


訝しげに眉を寄せるシンジに、タケシも確かに、と顎に手を置いた。
その間にも、キノガッサが自分たちが追ってきていないことに気づいて木の陰から様子をうかがっている。
さすがのサトシも、その異様な様子に気がついた。


「奴らは一体何が目的なんだ・・・?」
「・・・こうなったら追いかけてみよう!うだうだ悩んでるより速いだろ?」
「・・・仕方ないな」


ここで悩んでいるよりも、彼らの誘いに乗った方が、確実に謎は解けるだろう。
サトシの案に乗り、3人はキノガッサ達を追って走り出した。
突然乗ってきたことに驚き、キノガッサ達も走りだす。

どれくらい走っていただろうか。
10分以上は知っているのはわかるが、正確な時間はわからない。
おそらく10分ほど走って、キノガッサ達を追いかけるその先に、巨大な樹を見つけた。
樹齢何千年と言われても驚かないほどに大きな樹だ。
幹に大きな穴が開いていた。
どうやら、そこがキノガッサ達がサトシ達を誘導したかった場所らしい。
彼らはサトシたちがついてきていることを確認すると、その中に入って行った。


「俺たちも行こう」
「おう」
「ああ」


樹の中に入ると、そこは意外に広々していた。
荷物を奪ったキノガッサ達は、サトシたちが樹の中に入ってきたのを確認すると荷物を端に置き、樹の中央に駆け寄った。
そして中央に集まるキノココやアゲハントたちにその場をどくように促し、サトシ達に中央を見せるように場所を開けさせた。
その中央には枯れ葉が敷き詰められており、その上にケムッソが寝ころんでいた。
ただ寝転んでいるわけではないようで、苦しそうにときどきうめいている。
ただ事ではない様子に、タケシが慌てて駆け寄った。


「まずいな・・・。毒に犯されてる・・・。サトシ、俺の荷物を!」
「分かった!」
「シンジは水でタオルをぬらしてくれ!」
「ああ」


いつもは穏やかなタケシが険しい表情で指示を飛ばす。
その剣幕に、ケムッソがそれほど重症なのだとわかり、2人はすぐに動いた。

タケシが荷物をあさり、木の実で即席の毒消しを作る。
サトシがそれを手伝い、シンジが濡らしたタオルをケムッソの額において、熱を冷ましてやる。
そんな様子を、キノガッサ達は不安げに見つめていた。


「よし、できた・・・。シンジ、ケムッソの体を起してやってくれ」
「分かった」


そっと、できるだけ負担にならないように体を起こす。
タケシがする潰した木の実を口元に持っていくと、ケムッソがゆっくりと口を開いた。
かなりの時間がかかったが、用意した分はすべてお腹に収めることが出来た。


「全部食べたなぁ。偉いぞ、ケムッソ」
「ケムッ、」
「ケムッソはもう大丈夫だぞ~」
「!キノガッ!」


タケシが頭をなでてやると、ケムッソがうっすらとほほ笑む。
キノガッサ達にも声をかけると、彼らは嬉しそうに笑った。
それに穏やかな笑みを浮かべ、タケシがサトシたちに目を向けた。


「2人とも、悪いんだが近くにオレンの実がないか探してきてくれないか?」
「オレンの実だな?わかった」
「いってくる」
「頼んだぞ、2人とも」


毒消しだけでは、失われた体力は戻らない。
キノガッサ達が3人を連れてきたのが早かったためだろう、毒はあっさりと消えてくれたが、毒が消えても、体力が落ちた状態では別の病気などにかかる可能性だってある。
病み上がりは危険だ。
サトシとシンジは、オレンの実を探して走り出した。






























オレンの実は案外簡単に見つかった。
木の実の群生地だったようで、たくさんの木の実がそろっていた。
しかし、一つだけ問題があった。


「高いな・・・」
「ああ、高いな・・・」


それは、通常の木よりもかなり大きく成長し、木の実のなっている位置が恐ろしく高いということだ。
その上、崖の途中に群生しているというオプション付きで。
しかし、できるだけ危険な場所で木の実をとるのは避けようと辺りを探すも、他に木の実がなっているらしき木はなかった。


「・・・行くか」


他に木の実がないのなら、あきらめるか危険を承知でとりに行くほかはない。
上を見つめていても、無駄に時間を浪費するだけだ。
シンジが岩肌に手足をかけて登って行こうとすると、今度はサトシによって襟を掴まれ、止められた。


「おい、」


シンジが抗議の声を上げようとすると、サトシがシンジの腕をつかみ、岩から引きずり降ろす。
それとは逆に、今度はサトシが岩の上に登った。


「シンジはそこで待ってて。俺が行くから」
「は、何言って・・・?俺の方が・・・」
「そうだけど、万が一ってこともあるじゃん」


シンジが怪我するのは嫌なんだよ。
そう言って、サトシは軽い足取りで岩肌を登っていく。
そんなサトシを見て、シンジは呆然としていた。
サトシより体力や筋力は劣るものの、運動神経や身軽さはサトシを上回っている。
ロッククライムなしでテンガン山を登頂するくらいは、シンジにもできる。
むしろクライミングや木のぼりなどはシンジの方が断然うまかった。

なのに、それなのに、


「(ああ、くそっ・・・!)」


握られた腕や頬が、ひどく熱かった。





























「おーい、タケシー!あったぞー!!」
「お、助かった。ありがとうな、2人とも」


タケシはオレンの実をすり潰し、毒消しと同じようにゆっくりとケムッソに食べさせた。
ケムッソは先程毒消し薬を食べたため、あまりお腹に入らないのだろう。
今度は半分ほどしか食べなかったが、それでも十分食べたのだろう、その顔には笑顔が浮かんでいる。
この分なら、体力が戻るのにそう時間はかからないだろう。


「よしよーし、よく食べたなぁ。あとは体力が戻るまで安静にしてるんだぞー」
「ムッソ!」
「いい子だな」


優しく頭をなでて、キノガッサたちにもう大丈夫だぞ、と声をかければ、彼らは嬉しそうにケムッソの周りに集まった。


「じゃあ、俺たちはもう行くからな?」
「キノガッ!」
「ケムー!」
「じゃあな!」
「ケムッソは安静になー」


木の幹から這い出て見送りをしようとするケムッソに釘を刺し、3人は森の住人たちに見送られ、再び元の旅路についた。


「なーんか、もう、トラブルに巻き込まれるのが当たり前になってきてるなー」


タケシの苦い笑みに、サトシとシンジがきょとんとした様子でタケシを見上げた。
それからお互いで顔を見合わせ、もう一度タケシを見上げる。


「トラブルって?」
「そんなものに巻き込まれた覚えはないが・・・」


困ったようにタケシを見つめる2人に、タケシはひきつった笑みを浮かべた。


「(野生のポケモンに助けを求められるってそう何度もあることじゃないと思うんだけどなぁ・・・)」


自分が2人と別れる前に保護者ポジションの同行者を探しておかなければ。
タケシはそう心に決め、1人、大きくうなずいた。
そんなタケシの心情などつゆ知らず、サトシとシンジは次の町に想いを馳せるのだった。















(ところでシンジ、さっき顔が赤かった気がしたんだが・・・)
(っ!?な、何のことだ・・・!)
((あ、なるほど、サトシ関連か・・・))
((シンジの赤面見たかったなー・・・))




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