不思議な薬飲んじゃって






――――どうしてこうなった。
今、ジュカインの頭を占めているのはそればかりだった。
ことの発端はベトベトンの作った謎の薬だった。
それはジュカインはフシギダネを探しに研究所を訪れたことから始まった。
今日この日、フシギダネの検診があり、この日に限っていつもよりトラブルが多かった。
自分たちだけでは手に負えないと判断したジュカインは、検診が終わり次第、こちらに向かってもらう旨を伝えようと研究所の扉を開けたのだ。
いきなり、本当に唐突に、扉を開けたその瞬間、ジュカインは頭から水を被ったのだ。
その時水を被るきっかけとなったベトベトンとフシギダネの息のあった行動によりすぐさま髪やら体を拭かれたので体は冷えずに済んだのだが、何故水を被ることになったのか。
理由はこうだった。
オーキド博士を敬愛するベトベトンは、研究所内の警備を買って出たり、オーキドを手伝っているうちに「研究」というものに興味を持ち始めたのだ。
そして自らが作った薬を(よほど危険なものでない限り)仲間であるサトポケを使って検証し始めたのだ。
そして今日も薬をサトポケも誰かで検証しようとしているところをフシギダネに見つかり、薬の奪い合いになったという。
薬が2人の手をすっぽ抜けたその時、丁度研究所に入ってきたジュカインに薬がかかった、というのが事の顛末である。


「頭から薬を被るはめになった理由はわかったが、この薬の効果は何だ?」


ジュカインは首をかしげた。
かかっただけでは効果はないが、ジュカインは顔に薬を被ったため、薬がかかった時に運悪く薬をのみこんでしまっていた。
しかし自分の体に異変はない。
ベトベトンに説明を求めると、ベトベトンは効果はもう出ていると言った。


「この薬はな、簡単に言うと、薬を飲んだやつは幻覚作用はもう出ている、と言った。放つようになるんだ。だからお前自身に変化は見られない」
「幻覚?一体どんな幻覚なんだ?」
「美女に見えるんだよ」
「は?」
「お前が女で、とんでもない美人な姿が俺たちの目には映っているってことだよ」


そういうわけだから、襲われたくなかったら部屋に閉じこもってるこったな。
そう何でもないようにけろりと言われ、急激な眩暈に襲われたジュカインを誰も攻めることはできないだろう。

どうしてこんなことに。
頭を抱えてうずくまってしまったのは仕方ないことだった。
今日はいつにも増してトラブルが多いから、自分たちだけでは対処しきれないとフシギダネを呼びに来たのに!
自分が使い物にならなくなったらフシギダネに応援を頼んでもプラスマイナスゼロではないか!
そもそも襲われるって何だ!!!


「ああ、うん・・・。とりあえず俺が変わるから、ジュカインは部屋にいろよ・・・」
「ズルッグに教えを請われてバトルの手本を見せようとフカマルが流星群を放ったり、相手をしていたドンファンが破壊光線を放ってクレーターを作ったり、それに触発されたブイゼルがヘイガニとガチバトルを繰り広げられて、辺りを水浸しにしたり、それに怒ったベイリーフがソーラービームを放って地形を変えたり、あまりの騒がしさに切れたヨルノズクが容赦なしに念力を発動させている上に、いつもの水辺争奪戦やその他もろもろ、細かいトラブルが起きているんだが、」
「すまん、ジュカイン。水辺とその他もろもろの対処を頼む」
「うわぁ・・・」


ベトベトンすらもドン引くトラブルの数々。
薬で体質が変わったジュカインにすら手伝いを頼むほどのトラブルに、フシギダネは額を抑えた。
そんなこんなでフシギダネの許可を得たジュカインはトラブルを解決すべく庭を歩いていたのだが、その途中で出くわした親友のオオスバメに「俺の子を産んでください!」と土下座されたり(「どこの法師様だ、お前は!」と突っ込みを入れておいた)たまたま研究所に遊ぶに来ていたリザードンにいとしげに頬をなでられ無意味に緊張したり・・・。
その他もろもろいろいろあったがそして今、ようやく冒頭に戻るのである。

ジュカインは今、研究所にすみついた野生のポケモンたちに追いかけられていた。
幻覚作用を持つ香りは強力なようで、ポケモンたちはメロメロを浴びせられたかのように目をハートにさせながらジュカイン自慢の俊足にくらいついてきていた。
全力ではないが、それでも十分に距離が出来ている。
いっそ引き離している勢いなのだが、数がどんどん増えるものだからたまったものではない。


「ジュカインー!俺だー!結婚してくれー!」
「ジュカインー!」
「俺とつがいになってくれー!」
「ジュカイン、俺の嫁になってくれー!」
「断るっっっ!!!」


求愛の言葉を蹴散らすように声を張り上げ、更のスピードを上げる。
ジュカインを追いかけるポケモンの数は増える一方で減る見込みはない。
まさしく、どうしてこうなった、である。


「(!あれは・・・)」


見覚えのある黄色が目に飛び込んでくる。
それが何なのか認識したジュカインはゆるりと口元を緩ませ、そちらへ進路を変えた。


「――――ピカチュウ!」


声を張り上げ、彼の名を呼ぶ。
ピカチュウと呼ばれて少年は、つい、とジュカインの方に目を向けた。


「一緒に頼む!」


ダン!と木の枝を踏みしめ、ピカチュウの隣に飛ぶ。
ずざっ!とジュカインがピカチュウの隣に着地した。
ピカチュウは一瞬、何があったのか、と目をむいていたが、ジュカインを追ってきたポケモンたちを見て、状況を把握したらしい。
にっ、と口角を上げた。
そのあくどい顔と言ったら。
忘れるなかれ、まだサトシが新人だった頃にロケット団に見せたあの笑みを。
彼は存外いい性格をしている。
サトシに絆されてからはましになったが、根っこの奥の芯の部分はまだまだ黒い。


「行くよ。――――10万ボルト!!!」
「リーフストーム!!!」
「「「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」」」


ジュカインを追いかけてきたポケモンたちを吹き飛ばし、2人は額をぬぐった。


「何で追いかけてきたのかはその見た目で分かるけど・・・。その見た目、どうしたの?」
「ベトベトンだ」
「ああ、実験の被害に遭ったのか・・・」


ピカチュウが困ったように笑う。
名前を出しただけで悟られてしまうベトベトンェ・・・。
ジュカインは肩を落とした。


「おーい、ピカチュウー!どうかしたのかー!?」


黒髪の少年・サトシがこちらに駆け寄ってくる。
2人の技が見えたのだろう。心配そうにしている。


「大丈夫。トラブルを解決しただけだよ」
「そっか、よかった」


満面の笑みを浮かべるサトシに2人の頬が緩む。
クシャリと頭をなでられ、髪が乱れるが、サトシが相手だと気にならない。


「あれ?・・・なぁ、ジュカイン、どうしたんだ?」
「え?」
「いつもきれいだけど、今日はいつにも増してきれいだな」


するり、
ジュカインのサラサラと揺れる髪をなでる。
サトシになでられた横髪がさらりと揺れた。
それを脳が認識した瞬間、ジュカインは顔から火を噴いたのではないかというほどに顔を赤く染め上げた。


「ジュカイン?」
「・・・っ!」


顔をのぞきこまれたジュカインは、耐えきれずに脱兎のごとくに逃げ出した。


「あ!ジュカイン!!」


サトシが驚いて手を伸ばすが、すでに彼の姿はなかった。


「どうしたんだ・・・?」
「(いや、サトシ・・・。今のは君が悪いよ・・・)」


ピカチュウはこっそりとジュカインに向かって手を合わせるのだった。


















後日、ベトベトンが解毒薬を作り、ことなきを得たのだが、しばらくの間、サトシと顔を合わせられないジュカインであった。






オチはまさかのサトジュカ・・・。
自分でも予想外だった。




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