かわいいところ






俺はどうやら、泣き疲れて眠っていたらしい。
シンジと2人で泣いていた途中から、記憶がない。
うっすらと目をあけると、目の前に、優しい紫陽花色が広がった。

――――シンジだ。

眼が覚めて、真っ先に見れたのが、シンジだったなんて、俺は何て幸せなんだろう。
意識が覚醒してきて気づく。
俺、今どんな体制で寝てるんだ?
頭の下にある柔らかい感触に、俺は顔が熱くなるのがわかった。


「し、シンジ・・・!?」
「ああ・・・起きたか。ならさっさとどけ。重い」
「えっ、あ、ご、ごめん・・・」


ああ、やっぱり膝枕されてたんだ。
もう少し、寝たふりしとけばよかったな・・・。
そんなことを思いつつ、ゆっくりと起き上がる。
空はさっきまでの快晴とは違い、もう日が西に傾いていた。
そんなに長い時間寝てたんだ・・・。


「ポケモンセンターに戻るぞ、もうすぐ日が暮れる」
「そうだな」


シンジもたちあがって、2人でポケモンセンターに向かって歩いていった。


「・・・シンジ」
「何だ」
「シンジ」
「何だ」
「シンジ」
「だから、何だと聞いて――――・・・っ!」


返ってくるいつも通りの素っ気ない返事。
眉を寄せ眉間にしわが寄るのも御愛嬌。
そんなシンジが嬉しくて、思わず抱きしめた。


「よかった。いつものシンジだ」
「・・・ああ」
「よかった」


よかった。本当によかった。
俺の大好きなシンジが戻ってきた。


「・・・お前、どんだけ私が好きなんだよ」
「えっ?」
「いつもの私が、大好きなんだろう?」
「~~~っ!!!」


にっと勝気な笑みを浮かべて、シンジが俺を見る。
あああああ、そうだった。思いっきり可愛いとか大好きとか言っちゃってたんだった。
まさかそれを指摘されるとは思ってなかったけど。


「・・・それで?」
「え?」
「私に可愛いところなんてあるのか?」
「え?あの・・・」
「お前が言ったんだろう?」


ちゃんと分かってるって。
そう言って、シンジは上目遣いで俺を見つめてきた。
そういうところだって、言わなきゃわかんないかな。


「言わなくていいだろ?シンジの可愛いところは俺だけが知ってればいいんだよ」
「ふぅん・・・」


よくわからない、というふうに、シンジが首をかしげる。
無意識の上目遣いとか、首をかしげる仕草だとか、たくさんあるけれど、全部全部秘密。
誰にも教えてあげない。シンジにだって、教えてあげないよ。


「(それに、教えて、万が一にも意識的にやられたりしたら、たまったもんじゃない)」


ちらりとシンジを見ると、シンジはきょとりと目を瞬かせて首をかしげた。


「(ああ、もう、かわいいなぁ・・・)」




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