愛され若葉
ジュカインが連れてこられたのは洞窟だった。
研究所の庭を超え、そのさらに奥にある山の中にあった。
険しく切り立った園山は、ポケモンたちが住むのには優れておらず、研究所のポケモンはおろか、野生のポケモンたちでさえほとんど近寄ることのない山だった。
その洞窟の奥には、メスのポケモンたちがつかまっていた。
「(俺が連れてこられたのと同じ理由で捕まったメスポケモンたちか・・・)」
メスポケモンたちは涙をこぼすまいと唇をかみしめたり、耐えきれずにすすり泣く者たちであふれていた。
手足は縛られ、体の自由は利かない。
その様子にジュカインが眉を寄せ、オーロットに捕まったズルッグは不機嫌を隠そうともせずクリムガンを睨みつけている。
「誰から孕ませてやろうかと思ったが、決めた。お前からだ」
「・・・っ」
ジュカインが地面にたたきつけられる。
肩を打ちつけ、痛みに顔をゆがめる。それを楽しげに見つめ、クリムガンがジュカインに覆いかぶさる。
それを見て、嫌な予感がしたズルッグが暴れ出した。
「ジュカ!」
オーロットにふさがれていた口から手を引くはがし、叫ぶ。
ジュカインに手を伸ばそうとするが、いかんせんオーロットの力が強い。
「おい、大人しくしろ!」
「ジュカ!」
「ちっ・・・!そいつさっさと黙らせろ!誰かに見つかったら厄介だ!」
「わかってるよ!」
ズルッグを抑え込もうとするが、ズルッグは激しく暴れ、うまく抑え込めない。
そんなズルッグにしびれを切らし、オーロットが拳を振り上げた。
「この・・・っ!」
「やめろ!!!」
ズルッグに拳が振り下ろされ、ジュカインが叫ぶ。
ズルッグが殴られる覚悟を決め、目を伏せた時、すさまじい突風が吹き荒れた。
「ぐあっ!」
「ごぼぉっ・・・!」
一体何が起きたというのか。
鈍い打撲音が響き、どさりと倒れる音がする。
おそるおそる目をあけると、そこには自分に覆いかぶさっていたクリムガンは消え、代わりに自分の親友、オオスバメが心配そうにのぞきこんでいた。
「オオスバメ・・・!?」
「ジュカイン、大丈夫?」
「俺は平気だ。それよりズルッグは・・・」
「大丈夫だよ」
オオスバメが笑顔でジュカインの視線を誘導すれば、そこにはツタージャとフカマルに抱きつくズルッグがいた。
ズルッグを羽交い絞めにしていたオーロットはリザードンにより足蹴にされている。
「助けに来てくれたのか・・・」
「当り前でしょ?」
「・・・そうだな」
ジュカインが笑うと、オオスバメも笑う。
すると、洞窟の外から、パタパタと走る足音が聞こえてきた。
「おーい、大丈夫かー!?」
「サトシ!?」
「みんなにジュカインとズルッグが誘拐されたって聞いて慌てて帰ってきたんだ。2人とも、怪我はないか?」
「あ、ああ・・・」
「本当に?」
「・・・・少し、肩をぶつけた」
「そっか。ズルッグは?」
「!!!」
「ズルッグに怪我はないんだな」
サトシがジュカインとズルッグに駆け寄る。
彼は心配そうにしながらも、2人の無事を確かめると、安心したように笑った。
「こいつら?」
「ああ」
「メスポケモンたちは?」
「奥に捕まってた。今ツタージャが拘束を解いてる」
「そっか」
サトシとともに駆けつけたピカチュウとフシギダネはリザードンたちに声をかけていた。
彼らはいつも通り話しているようだが、その声には確かな怒りが混じっている。
「それよりさぁ、聞いてよ」
「どうした、オオスバメ」
「この2匹さぁ、ズルッグを殴ろうとした上に、ジュカインを押し倒してたんだよ?多分肩のけがはその時のものだよね~」
信じられないよねぇ?
「「「あ゛?」」」
うっすらと笑うオオスバメは狂気じみていた。
しかし彼の放った言葉に、サトシの後ろに控えていたホウエン組とイッシュ組が低い声を出した。
瞳孔が開いた目の恐ろしいこと。
「ベイリーフ、カビゴン。2人を連れて先に研究所に戻っててくれ」
「え、ちょ、サトシ・・・?」
「大丈夫。こいつらは俺たちに任せて」
「行くわよ、ジュカイン、ズルッグ」
「お、おい・・・」
ジュカインとズルッグが問答無用でカビゴンに抱えられる。
ベイリーフがそれに付き添い、研究所への道のりを歩んでいく。
その途中、爆発音だとか悲鳴だとか、とにかく地獄に響き渡っているような音が聞こえてきたのだが、ベイリーフたちには聞こえていないようで、2人は洞窟にいたわけだし耳なりでも聞こえているのかな、と納得した。
サトポケたちの活躍によりメスポケモンたちは解放され「メスポケモン行方不明事件」は無事解決に終わった。
近隣の森に平和が戻り、また笑顔あふれる平和な土地に戻ったのだった。
2人を誘拐したクリムガンとオーロットについてだが、この2匹をのちに見た者はいなかったので、その詳細は詳しくは判明していない。