愛され若葉






ジュカインはズルッグとフカマルとともにいた。
森の中の少し開けた小さな広場。そこでジュカインはズルッグのバトルの相手をしていた。

ズルッグがジュカインめがけて飛びひざ蹴りを繰り出す。
ジュカインはそれを紙一重でかわしていく。
見学中のフカマルは、2人の様子を感情の読めない瞳でじっと見つめていた。


「ぎゃう、ズルッグがんばれ」


フカマルの声援を背に受け、ズルッグが大きく跳び上がる。
それすらもひらりとかわし、ズルッグの腕をつかみ、頭を打ちつけないようにころりと背中から転がした。


「あぅ・・・」
「ズル、よくがんばった、ぎゃう」
「おれ、がんばった」


転がされたズルッグにフカマルがゆっくりと歩み寄る。
ぽんぽんと自分より幾分か低い位置にある頭をなでると、ズルッグが小さな手を握って拳を作った。


「でも、かてないの、くやしい」
「お前はサトシによく似て根性がある。経験を積めばもっと強くなれる」
「!!!」


ジュカインが頭をなでると、ズルッグは嬉しそうに笑った。


「――・・・」


すっ、とジュカインが目を細める。
辺りを探っているのか、その目はせわしなく動いている。


「ジュカ?」
「2人とも隠れろ」
「ぎゃ?」
「侵入者だ」


鋭くつり上がった目で一転を睨む。
視線はそちらから外さないものの、ジュカインは2人を抱え、近くの茂みに2人を押し込んだ。


「ナゾノクサ、そこにいるんだろう。2人を頼むぞ」
「は、はい」


茂みの中に隠れていた青年が、ジュカインから2人を受け取る。
ナゾノクサはジュカインの言った「侵入者」という言葉に身を固くしていた。


――ガサッ


「おっ、美人はっけーん」
「ありゃ、ジュカインだな」
「んじゃ次は俺の番だな」
「ちっ、どえらい美人見つけやがって」


茂みの奥から、にやにやといやらしい笑みを浮かべた男が2人現れる。
赤い紙をしたガタイのいい男はどうやらクリムガンのようで、もう1人の深緑の髪をしたひょろりと線の細い男はオーロットのようだ。
この研究所には預けられていないはずのポケモンたちだ。
そしてカントーには生息していないはずの野生のクリムガンにオーロット。
口ぶりからして、何か目的があってここに来たのだろう。
まぎれもない侵入者だ。


「なんだ、お前たちは。この庭を争うというのならば、斬り捨てるぞ」
「おお、怖い怖い」
「そんな怖い顔して、せっかくの美人が台無しだよ~?」


下卑た笑みを浮かべる2人の男に、ジュカインの眉間にしわが寄る。
不愉快極まりない。


「何が目的だ」
「実はよぉ、俺らの森の王様のお世継ぎが生まれたんだがよぉ。今のうちから嫁候補差が素ってんで、あんたに俺の子を産んでほしいわけだ。なぁに、2,3人産んでくれりゃあ帰してやっから」
「断る」


そもそも俺は男だ、という言葉は何とか飲み込んだ。
自分以外が標的になる恐れがあるからだ。
自分のプライドと仲間の身の安全。天秤にかけるまでもない。
しかしだからと言って、つかまる気もさらさらない。

腕に葉を生やし、リーフブレードを発動させる。
しかしそれをふるう前に、一つの影が茂みから飛び出してきた。


「!?ズルッグ!?」


オーロットに向かってズルッグが頭突きを繰り出した。
けれども頭を疲れまれ、簡単にねじ伏せられてしまう。
彼にはサトシの指示なしで戦えるほどの経験値がない。


「はーい、人質ゲット~」
「こいつに怪我させたくなかったら大人しくできるよな?」
「くっ・・・!」


ズルッグが抱え上げられ、口をふさがれる。
その腕から抜け出そうともがくが、その細い見た目以上に力が強いようだ。
人質を取られたジュカインは、悔しげに顔をゆがめた。


「じゃあ、行こうか?」
「わかった・・・」


オーロットとクリムガンに促され、ジュカインは大人しく2人の後に従い、茂みの奥に姿を消した。















「た、大変だ・・・!」


ナゾノクサが顔を青ざめさせて立ち上がる。


「みんなに知らせに行こう、フカマル!」
「ぎゃう!」


ナゾノクサとフカマルは走った。
目指すは仲間たちの元。




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