新たなライバル
カロス地方のとある森にて、昼食を終えたサトシたちは食休みも兼ねて、ポケモンたちを外で遊ばせていた。
「アマル~」
と、唐突に聞き慣れない鳴き声が聞こえ、そちらを向くと、そこには見覚えのないポケモンが一匹いた。
そのポケモンは水色の体に、頭部に黄色の襞のようなものが付いており、大きな目が愛らしい。
近くに人間がいるにもかかわらず、おびえたり逃げ出さないところをみると、トレーナーのポケモンなのだろう。
「初めてみるポケモンだな~」
「アマルスっていうんだよ!」
「へぇ~、アマルスっていうのか」
ユリーカに教えられた名前を反芻する。
アマルスは社交的な性格の持ち主のようで、すでにピカチュウたちろうち解け、彼らの遊びの輪に加わっていた。
「アマルス、どこにいる」
凛とした声が聞こえた。
ぱっとアマルスが顔をあげ、目を輝かせたところをみると、どうやら彼のトレーナーのようだ。
「アマルー!」
アマルスが声をあげてトレーナーを呼ぶ。
その声が聞こえたのか、茂みからトレーナーが姿を現した。
「ここにいたのか」
トレーナーと思わしき人間は、紫陽花色の髪が印象的な少女だった。
アマルスの姿を目にとめると、少女は安堵したように笑った。
「シン、ジ・・・?」
サトシが、呆然とした様子で呟いた。
そのつぶやきが相手にも聞こえたようで、少女は驚いたようにサトシを見つめた。
「サト、シ・・・」
サトシがはじかれたように走り出す。
シンジと呼ばれた少女の前まで来ると、両手を広げ、少女をその腕の中に閉じ込めた。
「久しぶりだな、シンジ!」
「ああ」
「ぴかっちゅう!」
「ピカチュウも元気そうだな」
サトシとともに抱きついてきたピカチュウをなでると、ピカチュウは嬉しそうにその手に擦り寄った。
「アマー!アマルー!」
アマルスがシンジの足元で飛び跳ねる。
それに気付いて、シンジはサトシの顔を見た。
「お前が保護しててくれていたのか」
「保護っていうか、遊んでただけだけどなー」
「そうか・・・」
シンジがアマルスの前にしゃがむと、アマルスは嬉しそうにシンジの頬に擦り寄った。
擦り寄るのをい冷めてシンジはアマルスを抱き上げた。
「勝手に遠くに行くなといっただろう?」
「ルー・・・」
「今回は許してやる。ただし、次はないぞ」
「アマー!」
シンジの言葉にアマルスは一喜一憂する。
落ち込んでいたかと思えば、上機嫌でシンジの頬に擦り寄っていた。
微笑ましげに眺めていたサトシの耳に、パタパタとこちらに向かって駆けてくる足音が聞こえた。
「いいなー!私もアマルスとほっぺすりすりしたーい!」
駆けつけてきたのは、ユリーカだった。
「この子は?」
「ユリーカっていうんだ。今一緒に旅をしてるんだ!」
「あの2人もか?」
少し遠巻きにサトシたちを眺めていた少年と少女を示す。
ユリーカが欠けて行き、2人の手を引っ張り、またこちらに戻ってくる。
「私、ユリーカ!で、こっちがお兄ちゃんのシトロン!」
「初めまして」
「私はセレナ。貴女は?」
「私はシンジだ」
「俺のライバルなんだ!」
嬉しそうに紹介するサトシ。シトロンたちも嬉しそうだ。
そんな中、シンジの抱いているアマルスに向かって手をあげ、ユリーカがぴょんぴょんととび跳ねる。
「ねぇねぇシンジさん!私もアマルス抱っこしてみたい!」
「ああ。重いから気をつけろよ」
「はぁい!」
シンジに手渡されたアマルスを抱き上げると、アマルスは想像よりもずっと重く、足元がふらつく。
「わ、ととっ・・・!」
倒れそうになるユリーカとアマルスをシンジが支える。
ようやく安定した銃身に安心して、ユリーカはほっと息をついた。
「ありがとう!」
「ああ」
「アマルー!」
「アマルスかわいい~」
アマルスとユリーカは頬をすり合わせて嬉しそうに笑っている。
ピカチュウとデデンネも2人の周りに集まり笑っている。
「アマルスと遊んでもいい?」
「ああ」
「やったぁ!」
アマルスを降ろし、一目散に駆けだすユリーカ。ピカチュウやアマルス、デデンネがそれを追う。
どうやら追いかけっこをしているようだ。
彼らを見守るように、シンジたちは彼らから少し離れた所に座った。
「そういえば、シンジはどうしてカロスに来たの?」
「ボスゴドラに新たな進化の可能性があると聞いてな」
「メガ進化の?」
「ああ」
セレナの問いにシンジが答える。
シンジはポケットの中にあるボールにそっと触れた。
「それでカロスに来たのか。あ、そういえば、バッジはゲットしたのか?」
「ああ。まだ3つしか持っていないが」
「俺はこっちに来たばっかりだから、まだ1つしか持ってないや」
「こちらに来たばかりなら、そんなものだろう」
久しぶりに会ったからか、話がはずむサトシとシンジ。
微笑ましげに見つめながらも時折会話に混じるシトロンとセレナ。
和やかに時は過ぎていく。
「そういえば、あのアマルスはどこでゲットしたんだ?」
「ああ、アマルスか。アマルスは化石ポケモンで、私が見つけた化石を復元してもらったんだ。輝きの洞くつで見つけた」
「へぇ~輝きの洞くつか~。俺も今度行ってみるな!」
「そうしてみるといい。綺麗な洞窟だったぞ」
よほど美しい場所なのだろうとは、サトシにもわかった。
シンジがきれいだと言い、口元を緩ませたのだから。
「アマル~!」
アマルスがシンジに向かって駆けてくる。
ちょこんとシンジの膝に前足を置き「呼んだ?」というように国をかしげている。
おそらく、シンジの言った「アマルス」に反応したのだろう。
「別にお前を呼んだわけではないんだが・・・。それより、ピカチュウたちと遊んでいたんじゃなかったのか?」
「アマルー!」
シンジが問いかければ、アマルスは嬉しそうにうなずく。
楽しかったからか、仲良くなれて嬉しかったからか。おそらく、両方であろう。
アマルスは上機嫌にシンジの頬に擦り寄った。
ちらりとサトシを一瞥して。
「(あれ・・・?いま・・・)」
サトシが首をかしげる。
また、アマルスがちらりとサトシを見て、今度はシンジの頬をぺろぺろとなめ出した。
サトシがピクリと反応を示す。
「お、おい、くすぐった・・・んっ・・・!」
アマルスがシンジの口にキスをした。
―――ピシッ
サトシが、固まった。
ぺろぺろと口元をなめるアマルスを墓場強制的に膝から降ろし、シンジが肩をすくめた。
「アマルスはシンジが大好きなんですね」
「アマルー!」
「・・・舐めるのはやめろ」
シトロンが朗らかに言った言葉にため息をつく。
シンジがアマルスにデコピンすれば、アマルスは不満げに鳴いた。
ポンポンと頭をなでてやれば、アマルスは機嫌よさげに笑った。
「アマルスー!次はかくれんぼしよー!」
「アマルー!」
ユリーカの声にアマルスがそちらにかけていく。
と、途中、急に立ち止まったかと思うと、アマルスはサトシを振り返った。
アマルスは勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
――――――ブチン
サトシの中で、何かが切れた。
「まさか・・・ポケモンがライバルになるとはなー」
「は?」
「こっちの話」
そう言って、サトシは笑った。
その笑みに違和感を覚え、シンジは首をかしげたが、気に留めることはなかった。
「(シンジ、覚悟しといてくれよ?)」
「(・・・何の話だ)」
『(シンジ逃げて超逃げて。闇サトシ降臨した)』