君ともう一度






前回、オーキド博士にピカチュウをもらうとき、寝坊してものすごく遅刻したけど、今回はシンジのおかげで寝坊せずに済んだ。
もしかしたら、ピカチュウはもらえないかもしれない。
そんなの嫌だな・・・。



















なんて、思ってた時期が俺にもありました。











「な、何故、今日はこんな・・・」


そう呟いたのはシンジだ。
俺たち、現在満身創痍です。
ちなみにまだ旅には出ていない。
今日は家を出た瞬間から、ひどい目に会った。
家の前の地面がいきなりなくなったり(ちなみに落とし穴とかそんなんではなく、もとから空洞があったらしい)しれ、それをよじ登って、ようやく這い出たと思ったら、更に地面が崩壊して、踏んだり蹴ったりだった。
そのあとも、木から降りられなくなったラッタを助けたりして、ここら辺ですでに遅刻寸前だったのに、いつもは大人しく荷車を引くケンタロスが、この日に限って暴走して、それをなだめるのに四苦八苦したり。
俺の旅立ちは遅刻することから始まるの?(遠い目)


「シンジ、大丈夫か?」
「ああ」


こんなことがあってもピンピンしてるあたり前世で超人と呼ばれてた1人だぜ。
2人とも旅立ちに備えて用意した服はすでに泥だらけだった。
まァすぐに汚れちゃうから別にいいんだけど。
俺もシンジも前世と同じ服装。可愛いのに何でそんな男みたいな恰好をするのかな。
せめてショートパンツ・・・。いや、妥協するな俺。絶対スカートはいてくれるまで説得しよう。


「やぁ、」


あ、この声は、と声のした方を向く。声の主は予想通りシゲルだった。しかもかなり怒ってる。


「随分と遅かったねぇ?今日はもう来ないんじゃないかと思ったよ。一体どこで何をしていたんだい?」


額にくっきりと青筋を浮かべているシゲル。
遅刻するはずはなかったんだぜ?不測の事態が起こったんだ。


「お前・・・待ってたのか」


ぱちぱちと目を瞬かせるシンジ。それは俺も思ったよ。前回より遅刻しているのによ。


「そうだよ。っていうかどうしたんだい?そんなに泥だらけになって・・・」


遅刻の原因だよ。っていうか頬に手を添えるのやめろ。


「おい、汚れるぞ」
「構わないよ」


そう言ってシゲルは頬や髪についた汚れを落としていく。
俺がやるとさらに汚れそうだから、それは別にいいんだけどさ、顔、近くないか。


「ねぇ、シンジ。どうしても僕と一緒に行ってくれないのかい?」


俺が5歳のとき、シンジに一緒に旅に出ようって言った時、確かシゲルがずるい!って叫んで俺と喧嘩になったんだっけ。
あのころはまだ可愛げがあったのに、今じゃただの嫌味なやつだぜ。
シゲルの言葉に、シンジは眉を下げた。


「悪いな。サトシとの約束がある」
「・・・じゃあ、もしぼくとの約束が先だったら、君は僕と一緒に旅に出たかい?」
「おそらくは」
「サトシだから選んだわけじゃないんだね?」
「?」
「つまり、サトシだから一緒に行くわけじゃないってことだ」
「・・・何がいいたいんだよ?」


思わず、低い声が出た。


「例え、一緒が出来なくとも、僕にもチャンスがあるってことさ。ってなわけだから、ハンデとして抜け駆け禁止だからね、5番目のサートシくん?」


シンジが幼馴染になって、俺はマサラで5番手になりました。
シゲルいわく、シゲルとシンジが同着で1番手なんだそうだ。
まぁそれはおいおい抜いてやるとして、抜け駆け禁止令はいただけない。
シンジはまだ10歳だから(いや、俺もだけど)手は出さないけど、抜け駆けは一緒に旅をすることになった俺の特権だろう?


「ふぅん?1番手のシゲルくんはハンデがなきゃ勝てる自信がないんだ?それも5番手を相手に?」
「何だと!?ハンデなんてなくても、僕は君に勝てるぞ!!」
「じゃあ、ハンデはなし?」
「いいだろう!ハンデはなしだ!」
「言ったな?」


10歳のころの、それもトレーナーをしている頃のシゲルは扱いやすくていいな。
子供みたいな挑発に乗ってくれる。
さっきの言葉は訂正。このころはまだ可愛げがあるわ。
俺たちの会話に首をかしげているシンジの手をぎゅうと握って、オーキド廷の門を開ける。


「じゃあ、俺たちはポケモンをもらってくるから」


シゲルとシンジはぽかんとした表情をしている。
状況を理解したらしいシゲルがわなわなとふるえる。
シンジはいまだにぽかんとしたままだ。
気にせず、研究所に入る。パタリと扉を閉めた瞬間、


「謀ったな、サトシイイイイイイイイイイイイ!!!」


なんて、叫ぶシゲルの声なんて、聞こえない。







――――――再会、そして






「おい、いいのか?あいつ」
「いーの、いーの!それよりポケモンだ、ポケモン!」
「相変わらずのポケモン馬鹿だな」
「馬鹿でいーよぉだ」


くすりと笑うシンジが可愛い。シンジの手を握った俺の手を握り返す小さな手が可愛い。
こんな可愛いシンジと旅ができるなんて、幸せだなぁと思う。
それに、これから生涯の親友に会えるんだ。楽しみでしかたない。
研究室の扉をあけると、そこにはオーキド博士が待っていた。


「遅かったのぅ、サトシ。って、何じゃ!?その泥だらけの恰好は!!?しかもシンジまで!!」
「聞かないでください」
「色々あったんだよ」
「そ、そうか・・・」


山から転がり落ちたのかってくらいに泥だらけの俺たちの恰好を見て、博士が驚く。
2人そろって遠い目をしてしまったのは仕方がないと思うんだ。


「それより博士、早く俺にポケモンを頂戴」
「そうせかすな、ほれ」


俺が博士に両手を差し出せば、博士は苦笑しつつもボールを渡してくれた。
雷のマークの入った、あいつのボール。


「出てこい!」


たまらなくなってボールを投げれば、そこにはやはりピカチュウがいて、思わず視界がぼやける。
不機嫌そうな彼は、やはりというか、電撃を落としてくれた。痛いけど、懐かしい。
博士は俺と一緒に巻き込まれたけど、シンジはうまくよけたらしい。
驚いたのか、目を見開いている。

大切な人がいて、いとしい人がいて、親しい奴がいる。
何て、幸せな空間なんだろう。ついつい、口元がほころぶ。


「これからよろしくな!ピカチュウ!」


そしてまた、親友になろうぜ、相棒!














(今度は、ちゃんと伝えて見せるから、)





(好きだよ、シンジ)



















マサラタウンのサトシ
年齢10歳

未来のポケモンマスター、旅立ちの日











ピカチュウ長生きしすぎ、とか言わないで(泣)




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