黒バス×ケンイチ






「はじめまして、荒涼高校2年の白浜兼一です。光樹君とは同じ中学の出身で、今日は光樹くんの説明のお手伝いに来ました。よろしくお願いします。」


そう自己紹介して白浜はぺこりと頭を下げた。
降旗の隣で笑う白浜に日向たちは面食らう。
また、昨夜のような道場破りかと思ったのだ。
しかし、来てすぐに降旗と親しげに話し始めたため、説明を求めたところ、彼にこう言われたのだ。
思わず曖昧な返事をしてしまったが、彼はにこにこと笑っている。


「・・・ケンイチさん。どうやって新島さんを撒いたんですか?」

「うん。谷本君に光樹くんのためって言って足止めしてもらったんだ。会いたがってたみたいだから、今度遊びに行ってあげてね?」

「はい!」


よしよしと頭をなでられ降旗は笑う。
2年生全員が思わず拳を握りしめてしまったのは仕方がない。
彼らは後輩が大好きなのだ。
自分のポジションをとられた気がして、白浜を敵とみなしたくなったが、それは何とか思いとどまった。


「でも、自分の説明ぐらい自分でできるんじゃないか?あと、同い年だから敬語使わなくていいから。」

「・・・うん、わかった。それも今から説明するよ。」


そう答えた白浜はどこか遠い目をしている。何かをあきらめたような、達観した目をしている。


「光樹くん。」


と、白浜が説明をうながす。
降旗は一つうなずいて説明を始めた。


「えっと、俺の家は室町から続く忍の一族で武士の時代の終わりとともに武術に転換したんです。なので、現在は武術家としてその手に界隈では結構名が通ってます。
 道場は開いてないんですけど、うちを下せば一気に知名度が上がるので、道場破りがよく来るんです。昨日の人たちはその一例ですね。」


そう言って、降旗は困ったように笑った。
白浜が遠い目をしたのがわかった気がする。
バスケ部一同も同じように遠い目をしてしまったのは言うまでもない。


「ちなみに、彼は降旗流の次期当主なんだよ。」


付け足すように言われた白浜の言葉に眩暈を感じる。
だって、あの降旗が。ビビりで小動物を彷彿とさせるバスケ部の癒しが、武術家だなんて、誰が考えるだろうか。


「・・・これだけでもついていけないと思うから、詳しく説明するのは光樹くんに耐性をつけてからにしよう。」

「それって、どういう・・・・?」


土田がたずねるが、聞かないでくれと言わんばかりに首を振られ、押し黙る。
彼の目に涙らしきものが見えて、これ以上聞ける気がしなかった。


「・・・以上の環境もあって、光樹君は武術を極めたような人たちの中で暮らしてきたんです。だから、その・・・。常識が達人たちのほうに寄っていて・・・。」


視線をさまよわせながら慎重に言葉を重ねる白浜。
なんとなく言いたいことは察した。
つまり、非常識と言いたいのだろう。
あまり言いたいことではない。


「でも、フリは常識持ってるように感じるんですけど・・・。」


河原が困ったように言えば、白浜が渇いた笑みを浮かべる。


「それは周りの人たちが彼に常識を教え込んだからだよ。たまに感じない?何か話が噛み合わないなーって。」

「・・・たまに、天然だなーって思うことなら。」

「そう、それ。」


黒子たちが首をかしげる。
降旗よりも話が通じない相手がいるだけに、降旗が常識外れだとは思えない。
けれど、白浜の目は真剣だ。嘘をついているようには見えない。


「光樹くん。自分の思った通りに質問に答えてくれる?」

「?はい?」

「・・・・ここは10階。目に前には階段。横には窓。君はどうやって1階に降りる?」

「窓から降ります。」

「・・・どうして?」

「階段って時間かかるじゃないですか。途中の階じゃないんだし、1階に下りるなら、飛び降りたほうが早いです。」

「ふつうは死ぬからね?」

「?俺、死にませんよ?」


2人のやり取りに日向たちは呆然とした。
今日は練習が終わったら耳鼻科に行こう。
そう思ってしまうくらいには自分の耳を疑った。


「・・・こんな感じです。」


白浜はひきつった笑みを浮かべた。
降旗は自分の異常さに気づいていない。
不思議そうに首をかしげている。
そんな彼に、火神たちはわずかに戦慄した。


「光樹君は周りの人に溶け込もうとして、常識を学んでいる途中なんだ。つまり光樹君は自分を表に出せない状態で生活してる。本当は普通に過ごしたいんだけど、そんなことをしたら周りに多大な被害を出してしまう。すごくつらいことだと思うんだ。だから、たまに出いいから、本当の光樹君を受け入れる時間を作ってくれませんか?」


そっと、降旗の耳をふさぎ、口の動きを見られないように自分の胸へと抱きこむ。
そういった白浜の顔は弟を思う兄、子を思う親のそれにそっくりで・・・。


「んなもん・・・言われなくても作ってやるよ。」


そう答える日向に、白浜は嬉しそうに笑った。














そう言ってしまった自分を恨む結果になるのだが、それはまた別のお話。




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