降旗in秀徳






春。降旗は秀徳に入学した。
中学とは比べ物にならない大きな校舎。
校則が厳しいというだけあって、身なりを正しているものが多い。
同じ中学からこの高校に来たものは少ないが、高校の雰囲気は明るい。
何とかやっていけそうだと、そっと溜息をついた。
親しい友人はほとんどいないが、それはこれから作っていけばいい。
心配なのは部活である。
中学ではほとんど上下関係のない部活だった。
たんに仲良しこよしな部活ではなく、勝つために練習に励む部活だったが、先輩後輩という壁はあまりなかった。
それだけでも不安なのに、ここは強豪校。
自分はマネージャーで、選手としては素人に毛が生えたようなもの。
なぜ自分がスカウトされたのかは未だにわからないが、やるからには全力で。
とてつもない不安はあるが、友人・銀野に「がんばる」と約束したのだ。
スタートラインにも立っていないようなところで、くじけてなどいられない。

(うん、頑張ろう。)

小さく息を吐く。
ふと、視界に青色がかすった。
何だろう?地面に何か落ちている。
見れば、それはしおりだった。
青いリボンに白い和紙の、手作りのしおり。
何の花かは分からないが、青い押し花がかわいらしい。
誰かが落としたのだろうか?
辺りを見回すと、きょろきょろと地面を見つめるひときわ目立つ緑色が見えた。

(あれはー)

みどりー
そうだ、緑間。
キセキの世代、緑間真太郎。

同じ高校だったのか、とか、目立つな、とか。
いろいろ思うことはあったがー

(もしかして、これを探してる?)

自分の手の中にあるしおりを見て、思わず首をかしげた。
彼落としものかどうかはわからないが、何かを探しているのは確かだ。
違ったなら持ち主を探しなおせばいいだけだ。

「あの、緑間・・・。」

名を呼ぶと、彼はすぐに振り返る。
規格外の大きさに、のどがひきつる。
それでも何とか笑って尋ねた。

「何か探してる?」
「・・・ああ。」
「もしかして、これ?」

そっけない返事に苦笑する。
そっとしおりを差し出すと、彼は驚いたように降旗としおりを見比べた。

「・・・これだ。」
「そっか、よかった。」

探し物が見つかって、緑間は安堵したのか、小さく息を吐いた。

「きれいなしおりだね。大切なものなの?」
「あ、ああ・・・。今日のラッキーアイテムで、昔母に作ってもらったものだ。」
「ラッキーアイテム?」

はた、と目を瞬かせる。
緑間は戸惑いつつも、大きくうなずいた。

「おは朝占いを知っているか?」
「うん。」
「その占いで出たものをいつも持ち歩きようにしているのだよ。今日は母の手作りの品で、それを持ってきた。」
「ーへ?」

おは朝占いといえば、ラッキーアイテムが鬼畜なことで有名だ。
降旗もまれにみるが、その鬼畜さには毎度口元をひきつらてしまう。
だいたい、勉強机や流し台など、どうやってもと運べばいいのだ。
二世帯住宅、持ち歩くとなお良し!などとのたまった時は本気で戦慄した。

「それはーすごいね。」

純粋にすごいと思う。
いつもラッキーアイテムを持ち続ける執念と、アイテムが見つかるまで探す根性。継続し続ける努力。
本当に、すごいと思う。

「緑間って、すごいね。」

そういうと緑間は眼を見開いた。

「・・・はじめて、言われたのだよ。」
「え?」
「いつも、変だとか、頭がおかしいなどと言われる。」
「確かに、変わってるかもしれないけどー。」

いい得て妙というか、それも一つの意見だとは思う。

「でも、継続は力なりって言うでしょ?それにね?何かを一身に信じ続けるって、とてもすごいことだと思うよ。」

そっと手をとって、しおりを渡す。
びくりと手が震えたが、彼は何も言わずに受け取った。

「俺、降旗光樹。よろしくな。」

手を差し出すと、彼はさらに驚いたような表情をした。
たじろいで、恐る恐るという風に、控えめに手を握り返される。

「緑間、真太郎だ。・・・その、助かった、のだよ・・・。」

今度は降旗が目を瞬かせる番だった。
けれどすぐに、降旗は笑った。

「どういたしまして。」




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