無意識の誘惑






降旗某(旧姓匿名某)という女性は、誰からも愛される女性だった。
「私のために争わないで」という某ヒロインのセリフを叫ばねばならないほど、複数の男性にとりあわれたこともあるほどだ。
同性にとりあわれたことだってある。
クレオパトラや小野小町のような、絶世の美女というタイプではなかったが、愛嬌のある顔立ちをしていた。
顔だけを取り上げるなら、むしろ某と幸せを誓った男のほうが、ずっと美しい。
釣り上がった切れ長の目。淡い茶髪が釣り目に印象を和らげる、さわやかな男性だった。
性格も、包容力のある、女性なら憧れる、俗に言う王子様のようだった。
それに対して、某のほうは、凡庸で、臆病で、人並みに愚かで、特質な部位はなかった。
断じて、お姫様などとは似ても似つかぬような女性だったことを、ここに記しておく。

ではなぜ、これほどの差のある男女が幸せになれたのか。
それは2人の一人息子である、降旗光樹を見てもらえばわかるだろう。




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