人間・夏目の出会い
「大丈夫?」
自分を助けてくれた赤い髪の男。
逃げていく妖を見つめ、呆然としていた夏目に声がかかった。
自分と男だけだと思っていた夏目の肩が大袈裟にはねる。
声のした方を見れば、自分と変わらない年齢だと思われる少年が、心配そうにこちらを見つめていた。
「だ、大丈夫、です・・・。」
「そっかー、良かった。」
にこりと微笑む少年に、力が抜け、ほっとした気分になる。
安心したことにより視野が広がり、2人の少年の奇妙さに気付いた。
1つは赤い髪をした少年が刀を握っていること(刀には赤い紐がくくりつけられ、簡単に抜けないようにしてある。この状態で刀を振ったので打撲音が聞こえたのだろう)
2つ目はこの少年ら2人ともが着物を着ているということ。
そして赤髪の少年には刀のように鋭い「何か」が。
夏目に声をかけた平凡そうな少年には、底知れない神々しさがあった。
2人ともが、人間には発することのできない気配をもっていた。
それに気づき、もう一度身が固まる。
けれど、少年はただただ笑っていた。
「察しの通り、俺たちは人間じゃないよ。」
「え、」
「でも、妖怪とも違う。」
言葉が出ない。
妖怪出ないなら、彼らはいったい何なんだ?
言葉にできないまま、首をかしげれば、少年はおかしそうに笑った。
「君を助けた彼は征十郎。彼は鬼だよ。」
征十郎と呼ばれた少年を見やれば、妖怪を追い払えるだけの力を持つような少年には見えないほど、幼い顔だとをしている。
目の前にいる少年の顔立ちも、自分よりも幼く見えるが、一体何年生きているのかわからない。
彼らの寿命は、人間のそれよりはるかに長い。
「そして俺は光樹。俺はね?
神様」
いたずらっ子のような笑みに、夏目は気が遠くなるのを感じた。
薄れゆく意識の中で、慌てふためく声が聞こえる。
どこにでもいそうな顔立ち。鬼の征十郎のように変わった髪の色をしているわけでもない。
どこをどう見ても神様だとは思えない少年の姿。
けれど、納得はできた。
彼の内から感じられる気配の正体は、神様の気配だったのか。
そう納得して、夏目は深い眠りの底へと落ちて行った。
これが、人間・夏目と、鬼と神様の出会いだった。