降旗が逆行する話
俺、降旗光樹と言います。
少し、聞いてほしいことがあるんだ。信じられないことかもしれないけど、全部本当の話。
俺は今日、帝光中学の入学式を人生の節目として、今までの人生を振り返ってみようと思う。
俺は一度死んだ。
前世は男。今は女。高校の卒業式の帰り道で、トラックにはねられて死んだ。
前世の俺はバスケをしていた。
誠凛高校バスケ部ニ代目主将。ポジションはPG。
俺が前世を思い出したのは、確か物心ついたかつかないかくらいの年齢の時。
テレビでバスケの試合を見て、思いだした。
まだ幼かった俺の頭では処理できなくて、酷く泣いて、親に心配をかけたらしい。
落ち着いてからは、前世が男であったこともあり、スカートを嫌がったり、髪を切りたいと駄々をこねたそうだ。
そのおかげか、俺がスカートをはいた覚えはないし、髪が長かった記憶もない。
今もスラックスをはいているし、髪も顎にかかるくらいだ。
前世のことははっきり覚えているのに、幼いころのことはあまり覚えていない。妙な気分だ。
こんな風に、男だった時の記憶は、女として生きてきた数年しかない記憶をすべて塗り替えた。
そのおかげで、小説とか読みたくなったし、みんなに会いたくなった。そして何より、バスケがしたかった。
親にわがままを言ってボールを買ってもらって、そんなにバスケが好きならと、小学校ではミニバスに入れてもらった。
前世の記憶がある分、俺は他の子よりバスケがうまかった。
楽しくて仕方なかったけど、みんな拙くて物足りなかった。
それに加えて、自分の感覚も成長した自分のものだったから、感覚が違いすぎて何度も派手に転んだ。
そういえば、ミニバスの大会で高尾に出会った。
男女混合チームで、確か当ったのは決勝。勝ったのは俺のチームだったっけ。
ただ似てるだけの別の子かもしれないけど、その子は確かに持っていたんだ。ホークアイを。
そのとき、俺は一つの可能性を思いついた。
俺は俗に言う「逆行」というものをしてしまったのではないかーと。
そこで、俺はその可能性を確かめてみることにした。
俺の家は、2つの学区の丁度境にある。
ひとつは逆行前に俺が通っていた中学。
もう一つは帝光中だ。
今の俺は、バスケの楽しさを知っているから、強豪校というのはとても魅力的だ。
すごく帝光中に行きたい。
幸いにも俺の両親はバスケを続けることに賛成している。
だから、帝光中に行くことを快く許可してくれた。
そして、俺の「逆行」という仮説はおそらく、間違っていない。
(校門をくぐったところで、見知った淡い水色を見つけたから。)