歩み寄ることの大切さ






「降旗くん。今度の日曜、キセキのみんなとストバスに行くことになったんですが、降旗君も一緒に行きませんか?火神くんも行くそうですよ。」
「いいの?」
「はい。みんなも喜びます。」

部活が終了し、帰宅の準備をしていた誠凛バスケ部は、驚きに一瞬身を固めた。
けれど、すぐにいつものように動き出す。早くこのやり取りに慣れたいものだ、とため息をついた。

降旗はWCで優勝した後、偶然赤司と出会ったらしい。
初めての敗北に混乱していた赤司をなだめたという偉業を成し遂げた降旗は、それ以来赤司と親しくなった。
赤司の友人ということでキセキの世代の興味を引き、現在ではほかの4人とも良好な友人関係を築き上げているそうだ。
オフの日などはキセキの世代とバスケをしているため、最近めきめきと実力をつけてきている。
火神に次ぐ成長株だった。
同じベンチ組だったはずなのに、その枠からにけ出しつつある降旗に、河原と福田は若干寂しい思いをしている。
けれど、それは彼の努力が実った結果で、ねたましいとは少しも思っていない。
ただ、友人が取られてしまいそうな悔しさと悲しさがあるだけだ。

「もちろん行くよ。あ、そうだ。河原、福田!お前らも一緒に行こうぜ?」
「・・・は?」
「へ?」

唐突にかけられた声に、河原と福田は間の抜けた声を上げる。
降旗は楽しげな笑みを浮かべている。
そんな笑みに2人は顔を見合わせ、申し訳なさそうに眉を下げた。

「悪い、フリ。俺、パス。」
「悪いけど、俺も・・・。」
「え?何か用事あった?」
「いや、特にはないんだけど・・・。」

言いわけくらい、いくらでもできた。
用事があると言えば、彼は自分たちを信じるだろう。
けれど、用事があるわけでもないのに嘘をつきたくもないし、参加を拒否した時の降旗の悲しそうな表情に、思わず否定の言葉が出てしまったのだ。

「じゃあ、どうしてだよ?」

拗ねたような表情になった降旗が問う。
兄気質な2人は弟気質な降旗に弱い。
嘘や言い訳をするという選択肢を失った2人は、覚悟を決めて、本音を漏らすことに決めた。

「いや、えっと・・・。なんか、俺らが言ったら場違いなんじゃないかな~って・・・。」
「火神たちみたいにバスケもうまくないし・・・。」

自分を過小評価する2人に、2年生たちの眉間にしわが寄る。
彼ら1年生はキセキに勝るとも劣らない自慢の後輩なのだ。
むしろ才能だけの(と言えば言いすぎだが)キセキなんかより、キセキと同等の才能を持つ火神や黒子がいるのに腐らずに努力し続けられる彼らのほうが、よっぽどすごい。
2年を代表する日向が口を開こうとするよりも早く、降旗が言った。

「俺も最初はそう思ってた。」

自分で自分を凡人だと称する彼は真剣な眼差しでそう告げた。

「でもさ、みんながみんな、そんな風に考えてたら、あいつらはどんどん孤立していくんだってわかったんだ。」

意味を測りかね、思わず眉が寄る。
けれど、降旗は気にせずに続けた。

「あいつらって、いい意味でも悪い意味でも近寄りがたいだろ?多分歩み寄ろうとする人も少なかったと思う。
 だから、キセキ内でのコミュニケーションの取り方しかわからないんだ。
 当然高校じゃ通用しない。だから、青峰なんかはチームじゃ浮いた存在になってる。その原因は多分、自分と別次元の人間なんだっていう考えだと思うんだ。」

少し悲しそうな笑みを浮かべる降旗。
彼の仮説には思い当たる節があり、納得がいった。

「あいつらも同じ高校生だよ。」

目尻に涙を浮かべた彼の満面の笑みに、2人は降参のポーズをとった。

「わかった。」
「俺たちも行くよ。」
「ホント!?ありがとう、河原!福田!」

心の底から嬉しそうに笑う降旗に、2人が思わず抱きつけば「ずるいです」と黒子が加わり、仲間外れを寂しく思った火神が4人を包むように抱きしめた。
そんな1年生たちを見て、2年生たちが悶え苦しんでいたのはまた別のお話。




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