降旗先輩






降旗と高尾、桜井に河原と福田の6人は火神のマンションに来ていた。
新入生の部登録が終わったその日の夜である。
6人は新しく入部してきた1年生のデータを見ていた。
データといっても本格的なものではなく、
仮入部期間にバスケ部に来ていた者たちの様子を観察し、感想を書いたものである。
他の2年生や3年生にも作ってもらったものなので、量は相当なものだ。

今日彼らが集まったのは、これからのことを考えて、伸ばしていきたいものを選ぶためだ。
帝光バスケ部は「百戦百勝」をスローガンに掲げるほどに、勝利への異常な執着を持っている。
一軍から三軍まで部員をグループ分けし、昇格テストまで行い、切磋琢磨させる徹底ぶりだ。
負けは許されない完全実力主義。
だからこそ帝光は全国に名をはせるだけの実力と実績があるのだ。

伸ばしていきたいものを選ぶというのは、何も贔屓しようとしているわけではない。
そのものと接触して、拍車をかけるためだ。
3年間向上心を持って成長を続けてもらうために。
自分たちが卒業しても勝ち続けられるように。


「さて・・・候補は7人。うち1人は存在を確認して記録をつけていたのがフリ、高尾、火神の3人だけ、か。
 いろいろと厄介だぞ、これは。」


そう言って口元をひきつらせたのは福田だった。
それもそのはず、総勢50人が記録をつけていた中で、影の薄い少年・黒子テツヤを記録していたのはたったの3人。
口元をひきつらせるには十分だった。

それに比べて、他の候補6人の少年らは、50人全員が記録をとっていた。
良くも悪くも、人の目を引く6人だった。
6人の名前は赤司征十郎、青峰大輝、緑間真太郎、黄瀬涼太、紫原敦、灰崎祥吾という。


「黒子はひとまず後回しにしたいんだ。赤司に任せてみたい。」


そう言って口角をあげたのは降旗だ。
楽しそうに笑いを転がしている。


「じゃあ、誰が誰行く?」

「俺、紫原!」


高尾の問いに真っ先に反応したのは福田だった。
今年は体の大きなものは多かったが、センターはほとんどいなかったのだ。
同じポジションで、自分が目をつけていた人物が候補にあがってくれてうれしかったらしい。


「あ、あの・・・。僕、青峰くん行きたいです。」


控えめに挙手したのは桜井だ。
彼は気が弱く、あまり主張することもない。
彼自ら申し出ることは、とても珍しいことだった。


「んじゃ俺、黄瀬行くわ。」

「俺はもちろん緑間!」

「俺は灰崎かな。」


河原は黄瀬。高尾を緑間。火神は灰崎と接触することが決まった。
降旗は必然的に赤司、ということになるのだが、もちろん彼に異論はない。


「火神は灰崎と喧嘩しないようにな。
 桜井は謝りすぎないように。高尾は爆笑してしゃべれないようになるなよ。
 他2人はまぁ大丈夫だろ。
 変化があった場合は逐一俺に報告すること!以上!」


降旗はそう言ってデータの書かれた記録用紙を机の上に放り出した。
つめていた息を吐き出すように深く息をする。


「火神ィ、腹減った。」


降旗が火神を見やれば火神は苦笑してのっそりと立ち上がった。


「俺も腹減ったわ。何がいい?」

「肉じゃが~。」

「俺、カレー!」

「チャーハン!」

「俺、ビーフストロガノフ食ってみたい!」

「ぼ、僕は何でもいいです・・・。」

「和洋中バラバラじゃねぇか!せめて統一しろ!てか、全部は作れねェよ!!」

「「「「「じゃあビーフストロガノフで。」」」」」

「何故、それチョイス!?」


作り方なんて知らねぇよ、と文句を言いつつも、すぐにパソコンに向かう辺り、火神はやはりよくできた嫁だろう。
真剣にディスプレイを見つめる姿に、今度マジバを奢ってやろうと思う5人だった。









(ちょ、うめぇ!)

(さすが、火神。)

(これ、ほんとに初めて作ったのかよ!?)

(今度作り方教えてください。)

(おう。)

(この牛肉と玉ねぎの絶妙な・・・。)

(((河原うるさい。)))

(ひでぇ!)




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