降旗先輩






新入生へのあいさつの後、降旗たちは体育館の外に出た。
外に出た瞬間、降旗が崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。


「あ~・・・怖かったぁ・・・。」


先ほどとは打って変わった気弱な言動に火神が苦笑する。


「いきがよさそうなのばっかだったしなぁ。俺はあの色黒の奴と戦ってみてぇと思ったぜ!」

「ぼ、僕も彼はちょっと気になりました。すいません!」


火神の言葉に桜井が続ける。
言葉の端々にあらわれる「すいません」は彼の口癖だ。
後輩ができるにあたって、できるだけ口にしないように心掛けるように言われたが
気を抜けばすぐに「すいません」が飛び出してしまう。
特に気の置けない仲間の前では、ついつい口を衝いて出てしまうのだ。
それを知っている5人は嬉しそうに笑う。
次に口を開いたのは高尾だった。


「俺は指にテーピング巻いてたやつ!
 あいついっつも何かわけわかんないもん持ち歩いてんの!
 もっ、やっばい!何度笑ったことか・・・!!」


そう言いながらも彼は腹を抱えて笑っている。
笑すぎて目には涙がたまっているほどだ。
彼は笑いの沸点が低い。
笑すぎて注意されることも多いが、それは御愛嬌。
彼はその底抜けの明るさで、この部のムードメーカーを務めている。
彼も、この部には欠かせない人物の一人だ。


「俺はあの一番でかい紫色の髪の奴!」

「俺はあの金髪の奴かなぁ。灰色の髪の奴もいいと思った。」


福田と河原が高尾に続く。
今年は皆総じて背が高い。
小さくても平均身長は超えているだろう身長をしている。
自分たちの年はあまり背の高いメンツはそろわなかった。
そのため後輩がやたらと高く感じてしまう。
しかも、そのほとんどがバスケをするために生まれてきたかのようながっしりとした体格をしていた。
しかし、6人はそれをうらやんではいなかった。
彼らには、それぞれの武器がある。
体は小さくとも、それをカバーできるだけの技術があるのだ。


「俺は気になる奴を2人見つけたよ。」


最後に口を開いたのは主将である降旗だった。


「1人目は一瞬見間違いかと思ったほど影が薄い奴。
 背もそんなに高くなかったし、
 体格には恵まれていなかったけど、何となくあいつには他とは異なる何かを持っていると思ったよ。」


「何か」とは何なのか、今はわからないと彼は言った。
けれど「何か」があると本能が告げる。
彼の言葉を疑う者はここにはいない。
5人は真剣な表情で降旗を見つめた。


「そして2人目。赤い紙に赤い目をしたやつ。
 俺が来てからずっと俺のことにらんでたなぁ・・・。」


降旗が「怖かった」と言ったのは、きっと彼のせいだろう。
最後に一文は、ため息とともに吐き出されていた。


「でも、あいつ・・・面白そうなやつだなぁ・・・。」


赤い舌が少し乾いた唇を濡らす。
舌なめずりをする降旗の目は獰猛な獣を彷彿とさせるほどにギラギラと輝いている。
何事かを考えているのか、湿った唇から紡がれた言葉は、まるで独り言のようだった。


「さて、誰かさんが新入生に宣戦布告しちゃったことだし、俺たちはレギュラーの座を守るために練習しますか。」


そう言って大きく伸びをしたのは高尾だった。
降旗は小さく苦笑して立ち上がる。
その表情に後悔の色はない。


「ああ言っておいたほうが、みんなちゃんと練習するだろ?新入生もレギュラーも。」


あまりに眩しい笑みを浮かべるものだから、5人は降旗につられるように笑った。







「でも、その仕草はえろいから、俺ら以外の前ではやんないでよね。」

「は?」

『(無自覚かよ。)』




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