降旗in秀徳
降旗光樹はバスケ部男子マネージャーである。
バスケ部に入った理由は友人に頭を下げられたから。
特に部活に入る気はなかったのだが、友人の頼みを断り切れなかったのだ。
あまり乗り気の入部ではなかったが、やるからには全力で。
それが降旗のモットーである。
降旗がマネージャーになったのは選手として自分が役に立つ道が見いだせなかったのと、選手である友人に頑張ってほしかったからだ。
幸いバスケは5人いればできるため、降旗が抜けても問題はなかった。
マネージャー業がひと段落つくと、降旗も練習に加わる。
練習をしながら選手の体調や部員たちの癖を見つけなければならなかったので、周りを見る力はついたと言える。
練習量が違うので、ドリブルなどは拙かったが、降旗がいれば3on3のゲームが行えたので、友人には涙ながらにお礼を言われた。
けれど決してうまくはなかったので、パスは通るがドリブルをすれば簡単にボールを奪われた。
本来ならベンチにも座れないような、そんな実力である。
だから、決して、このような場所に立つ存在ではないのだ。
「すまない、みんな・・・。」
申し訳なさそうに頭を下げたのは、主将にしてPGの降旗の友人だ。
彼はこの試合、バランスを崩した相手選手をかばい、右足を負傷した。
悔しそうに唇をかみしめる彼の努力を降旗は知っている。
彼はテーピングを撒く降旗に言ったのだ。
「俺の代わりに試合に出てくれ。」
彼がどんな思いでバスケに臨むのか、それは近くで見てきた降旗が一番よく知っている。
だから降旗は、彼に託された4番を着て、コートに立ったのだ。
(でも、失敗だったかもしれない・・・。)
ドリブルもだめ、シュート率も低い。自分にできるプレイはパスをつなぐことだけ。
それでもいいと、彼らは言ってくれた。けれど、膝は笑い、背筋に嫌な汗が伝う。
それでも、彼らは必要としてくれたのだ。
やるからには全力で。それが降旗光樹のモットーである。
降旗はパスを出し続けた。どんなに点差が開いていようとも、試合が終わるその時まで。