ドS旗光樹くんと健気征十郎くん
「おはようっす、黒子っち!」
現在、午前10時30分前。
マジバにて。
黒子は赤司と降旗の身を心配して、彼らの待ち合わせの10時より1時間前にマジバに来ていた。
そして、それよりも早く席に着いていた赤司の死角になる席に座っていた。
1人では精神的に堪え難いため、9時30分に待ち合わせということで黄瀬を呼んだのだ。
「おはようございます、黄瀬君。」
「あの・・・黒子っち・・・。赤司っちって10時待ち合わせじゃ・・・。」
「はい。もうすでに1時間以上前からここにいます。」
「い、1時間!?」
思わず赤司を見てしまったのは仕方ないだろう。
黄瀬は赤司に焦点を合わせたまま絶句している。
9時にここに来た黒子も同じように呆然としてしまった。
「な、何もんっすか、降旗クン・・・。」
自分もそう思ってしまったので小さくうなずく。
ちら、と赤司を見てバ、赤司は外を眺めていた。
ふと、赤司の目が輝いたのがわかった。
同じように外を見れば、そこには降旗の姿が合った。
赤司の視線に気づいたのか、慌てたような表情で降旗が店に駆け込んだ。
「ご、ごめん、赤司君!遅れちゃって・・・。」
「大丈夫だよ。まだ、待ち合わせの時間の前だし、僕も今来たところなんだ。」
「そっかー、よかった。」
あからさまにほっとする降旗。
困っているかのように眉がハの字を描いているが、彼は笑っている。
神士な対応に安堵したのだろう。
「・・・いまんとこ大丈夫そうっすね。」
「ですね・・・。」
つめていた息を吐きだした。
思いのほか緊張していたらしい。
「・・・飲み物、多めに買っときましょう。」
「そっすね。」
ほんの数分のことなのに、もうすでにのどがカラカラだ。
黄瀬が渇いた笑みを漏らした。
「あの、降旗くん。」
「うん?」
「あの時はありがとう。」
降旗は赤司の唐突な言葉に、一瞬だけきょとんとした表情を浮かべた。
けれど、そのあとああ、とうなずく。
「気にしなくていいのに。赤司君って律儀なんだね。」
そういった降旗は純粋な笑みを浮かべている。
対する赤司は下心がある故の罪悪感からか、うまく笑えていない。
「それで、ハンカチ汚しちゃったから、新しいのを用意したんだけど、もらってくれるかな?」
「わー、ありがとう。大事に使わせてもらうよ。」
嬉しそうな降旗に、赤司もうれしそうに笑う。
それを見て、黒子たちもほっとした。
「・・・あのさ、あの、よかったら、メアド、教えてくれないかな?」
「なんで?というか、連絡することなんてあるの?」
この切り返しは予想していなかったらしい。
赤司が硬直した。
けれど、持ち前の頭の良さをいかんなく発揮する。
「テツヤのことが心配なんだ。テツヤはすごく小食だろう?
もっと食べないといけないって言うんだけど、食事量は増えないし・・・。
叱ろうにも本人がちゃんと食べているっていえば、こっちは何も言えないしね。
・・・あと、君のことも知りたいし。」
「そっか。」
そう言って携帯を取り出す。
赤司がほっと息をついた。
「赤外線でいいよね?」
「構わないよ。」
赤外線で交換したアドレスに、赤司は満足そうに笑った。
降旗も笑顔のままである。
「黒子のことはちゃんと報告するけど、俺のことはメールするつもりはないから。」
「え。」
「「え。」」
赤司だけでなく、黒子と黄瀬まで目を見開いた。
降旗は怖いくらいに満面の笑みである。
「メールとか電話だと、相手の顔が見れないだろ?
気が強くなるから、多分かなりひどいこと言っちゃうと思うんだよね?」
「あ、ああの?降旗くん?」
血の気が引くってまさにこのことを言うんすね、とは後日黄瀬が語ったことである。
赤司の顔が青く染まっている。
しかも、かなりド持っている。
降旗は眼を細めて笑っている。
実に楽しそうで、それでいて、すごく不機嫌そうに。
「俺、火神に怪我させたこと、まだ許してねぇから。」
次の日、誠凛の体育館に火神に土下座する赤司がいた。
それを見ていた黒子含む誠凛一同は全身から血の気が引いた。
しかし、それを上回る恐怖は、土下座して謝罪する赤司を見て楽しそうに笑う降旗がいたことである。
思わず戦慄したのは言うまでもない。
「・・・恋は盲目とは、よく言ったものですね。」
そう呟いた黒子が命がけで激写した「赤司の土下座」写メは、
降旗の手によってキセキ全員に回された。
後日、降旗光樹の存在が(赤司を抜いた)キセキ会議の議題に持ち上げられたのは、また別の話である。