降旗光樹はただ者じゃないと信じてる
「時間が惜しいから今日から練習してもらう。メンバーもレギュラーだけ覚えればいい。」
そう言われ、降旗は目の前に並んでいる5人の少年と1人の少女を見つめた。
「右からSGで3Pを得意とする緑間真太郎。SFで一度見た技をコピーできる黄瀬涼太。
PFでエースの青峰大輝。Cだがオフェンスも得意とする紫原敦。
そして、影の薄さを利用してパスの中継役をこなす黒子テツヤ。最後にマネージャーの桃井さつきだ。」
髪の色と同じだ。これが最初の感想である。
若干一名違うがここまでそろっている時点で奇跡だ。
覚えやすいと言えば覚えやすいが、一度に6人も覚えるのは難しい。
少しだけ肩をすくめ隣に並ぶ赤司を見る。
「・・・お前キャプテンだったんだな。」
「よくわかったな。」
「隠す気ないくせに。周りの反応見りゃわかるし。お前が何かやらかしたってことも。」
呆れたような降旗とは裏腹に赤司は楽しそうだ。
声に笑いが含まれている。
降旗はもう一度肩をすくめた。
「・・・俺は降旗光樹。陸上部です。練習試合の助っ人として呼ばれました。
いろいろ思うところはあるだろうけど、今回だけだと思うので仲良くしてくれるとありがたいです。」
降旗は言った。
6人は特に反応を示さない。
嫌悪寒などは感じないが、好意も感じない。
興味がないのだろう。
悲しいと感じた。
反応がなかったことではない。
関心を持たない彼らの心に、だ。
「・・・質問してもいいか。」
「何だ、緑間。」
おや、と思う。
そこで気付いた。
彼らは興味を示していないのではなく、戸惑っていたのかもしれない。
赤司も自分の懐に入れたもの以外には一線を引いている。
彼らもそうかもしれない。
そうだといい。
「今回だけ、ということはつまり兼部だろう?その間の陸上部の活動日は・・・。」
「陸上部を優先させてもらうよ。」
「そんなんで俺らと一緒にやれるんすかねぇ・・・?」
けだるそうに黄瀬が言う。
強豪と呼ばれる帝光で、初心者を自称するものがいきなりレギュラーとともに試合にでるのだ。
彼の言葉はここにいる誰しもが思っていることだろう。
ただ言葉にしたのが黄瀬だったというだけのこと。
降旗は苦笑した。
ふと気を緩めた瞬間、隣からすさまじい殺気を感じた。
赤司が怒っている。
彼を見れば、ただでさえ鋭い瞳をさらに尖らせ黄瀬をにらんでいる。
射るような視線に気づいた黄瀬の顔は真っ青だ。
横に並ぶ少年らの顔からも血の気が引いている。
「黄瀬、文句なら俺が聞くぞ。」
きれいな笑みを浮かべた赤司は優しい声音でいう。
しかし、その瞳は凍てついており、声も刺すように冷たい。
「やーめーろって。」
降旗がたしなめるように言う。
すると赤司が眉を寄せてしぶしぶというように引き下がる。
レギュラー陣のみならず、体育館にいる全員が驚いた。
あの赤司が他人を尊重するなんて!
「あ、あの・・・。」
「何だ、桃井。」
「練習メニューは・・・。」
「一緒でいい。個人メニューは・・・そうだな、しばらくは俺と同じでいいだろう。」
「えっ!?」
桃井が目を丸くする。
一体どんなメニューなんだ、とは思わないでもない。
「・・・お前がそういうってことは、大丈夫なんだろ?」
「ああ。」
間髪いれずの返答にうなずく。
「なら、一緒ので。」
この時、2人の信頼関係が垣間見えた気がした。
後にこれを語ったのは桃井である。
「んじゃ、俺も質問。」
「青峰。」
「ポジションは?」
言われて気づく。そういえば決めていなかった。
「・・・う~ん、とりあえずCとかは無理かな。
てか、赤司は俺をどのポジションにするつもりだったんだ?」
「SFかPGだ。」
PGは赤司のプレイを見ていてよく知るポジションだ。
SFは黄瀬の穴を埋めるためだろう。
彼はモデルをやっていたはずだ。
了解、とうなずくと、今度は黒子の手が挙がった。
「・・・あの。」
「黒子。」
「陸上部の方に兼部のことは伝えているんですか?いきなり呼ばれた風に感じたので・・・。」
「そんな抜かりがあると思うか?」
ああ、いつもの赤司だ。
黒子だけでなく、周りの少年らもそう思った。
降旗は頭痛のでもあっているかのように顔を覆っている。
「・・・陸上部の活動日があるか心配になってきた・・・。」
小さくつぶやいたそれは、隣の赤司にも聞こえなかった。