交錯と荒廃






 椿は複雑な表情で目の前に広がる光景を見つめていた。
 椿はその場所を知っていた。非常に不本意ながら。


「出来れば、二度とお目にかかりたくなどなかったんだがな……」


 椿にしては珍しく、酷く焦燥しているような顔だった。
 その場所はとても濁っているような印象を受けた。
 空気は長い間閉め切った部屋の様に重く澱んでおり、どろりと纏わりつく様な粘度を含んでいる。その空気は肌を撫でるたびに不快感を引き起こし、椿は思わず顔をしかめた。
 その空間は、生命の気配を感じさせない。
 草も木も枯れ果て、これ以上ないというくらいに荒れている。この先、この場所で命が芽吹くことは無いと、そう思わせるほどに。
 見るものすべての心を荒廃させ、不健全で不健康な空気が健やかな心を蝕んでいくそこは―――……


「私はとことん、この場所に縁があるな」


 ―――ブラック本丸と呼ばれる場所であった。




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