交錯と荒廃
『椿さんは今の担当と上手くいっているかい?』
それは都―――椿の先輩審神者にとって、突然の連絡であった。
連絡を寄越してきたのは、高齢であることと、霊力の衰えにより担当官を退いた役人であった。
彼は都と、その後輩の椿の元担当官である。彼は審神者に対して心を砕くことのできる役人で、今でもこうして都達を心配して連絡を寄越してくれることが多々あった。
『今の担当官とあんまり連絡が取れなくてね。何か聞いてないかと思ったんだけど……』
元担当官の男性は、心配をにじませた声をしていた。
『本人に聞いた方が早いと思ったんだけど、前担当と話してるってなると、現担当にとってはあまり気分のいいものではないからね』
その点、君は心配知らないしね。
元担当がお茶っ気を聞かせた声で笑う。
都の現担当官は元担当官の後輩に当たる役人で、元担当官が心配症であることを重々承知しているからである。
しかし、役人は総じてプライドが高い。前担当官が自分の担当から外れた審神者と連絡を取っている事を不快に思う役人は多い。自分の力量を疑われていると感じるからだ。
『椿さんの担当官はその手の人らしくて、全然連絡がつかないんだよ』
こういうことがあるから、自分の後輩を宛がいたかったのに……。
そう言って、元担当官は深いため息をついた。
都は口の中が渇くのを感じた。
「俺は、そう言った相談は特に受けていません」
『そうなのかい?』
椿の口から担当官のことは確かに聞いているが、新しい担当官について悩んでいるようなそぶりは一切なかった。そのことを正直に話すと、元担当官はほっとしたように声を和らげた。
『まぁ、君にも話してないってことは、そう深刻にならなくても良いってことかな?』
忙しいのにすまないね。
そう言って、元担当官は労いの色を乗せた言葉を残し、通話を切った。
都に不安を打ち明けたことで元担当官の心は幾分か晴れたようだが、逆に都に言い知れぬ不安を残すこととなった。
「いや、そんなまさか……」
確かに厳しい人であるというようなことは聞いていたが、彼女はそう言った人間の方が自分には合っていると、そんな風に言っていた。その言葉に嘘偽りがあるようには見えなかったし、担当官に不満を持っているようにも見えなかった。
けれど、それは彼女が人の悪意に疎いからであったら?
「いやでも、刀剣達もいるし……」
そこで、都は嫌なことを思い出した。椿はこうも言っていなかっただろうか。担当官はあまり本丸に来ない、と。
その理由が、刀剣達との接触を避けるためであったら?
「っ!!」
堪らず、都は端末を掴んだ。すぐに椿の連絡先を引き出す。
「出ろ、出ろ、出ろ!!!」
端末を耳に当て、椿が出るのを今か今かと待ち望む。一つ一つのコール音が、やたらと長く感じた。
「早く出ろよ……!」
しかし、
―――――――、
聞こえてきたものは、無機質な機械音だけだった。