【ゲートの】ブラック本丸に迷い込んでしまったんだが【故障?】 3






 主たる審神者との交流を終え、山姥切国広は端末を閉じた。自分の知らないところで主が傷つけられるのは我慢ならない性質であるので、立ちあげればすぐにスレを見られる状態にはしてある。
 しかし主命を与えられた今、最優先事項はスレを追うことではない。主命を果たすことである。
 主からの主命はこうだ。”信じて待て”。それを実行するには、まず本丸を”信じて待って”いられる状態にしなければならない。
 気合を入れるように一つ深呼吸をして、国広は背後を振り返った。
 今の本丸の様子を言葉にするのは難しい。落ち着いていると表現できるのは、国広しかいないといった状態だ。主の危機であるため、当然と言えば当然なのだが。


「……姐さんは、俺たちに斬らせることを躊躇わない人だ」


 この本丸特有というべきか、この本丸に住まうものたちは、前置きというものがない。主たる椿がそうであるからか、刀剣達もそうだ。それに慣れ切った刀剣達は特に驚くこともなく国広に視線を向けた。


「あの人は、仇なす者は斬れと、再三言っていただろう?」


 ―――君たちが私を仇なす敵を斬ってくれるというのなら、君達を仇なす敵は私が斬る。
 かつて、椿が国広達の主の座を獲得した時に宣言した言葉だ。ただ守られるだけの主ではないという、そんな誓いだ。


「少しでも自分を害する素振りを見せれば、あの人は小夜に命じるだろう。”斬れ”と」


 刀剣男士は刀の付喪神だ。刀であり、神である。それと同時に、人の心も持つ、不思議な存在だ。
 姿形こそは人の形をしているが、その本体は刀で、その性質は純然たる鋼だ。
 人の姿をしているから、刀剣男士を人の様に扱う審神者もいるが、椿は違う。刀剣男士として扱うのだ。
 人としての喜びを教えつつ、けれど決して、刀としての誇りを汚さない。
 だから、相手がなんであろうと、刀の本質である”斬る”ことを、決して躊躇ったりしないのだ。例えそれが、同じ人の形をしていようとも。


「それをしないのは、多分姐さんのいる本丸の刀剣達が、姐さんを仇なす気がないからだろう」


 椿は無知で無謀で、どうしようもない人間であると自他ともに認めている。家臣たる刀剣達も。
 けれど、彼女は刀剣達に心より慕われ、その信頼と共に彼らを率いるいっぱしの将でもあるのだ。害と無害を見誤るような愚かな真似はしない。
 つまり、彼女が小夜に”斬れ”と命じないのは、ブラック本丸の刀剣達が、彼女を害する気がないということに他ならない。
 ―――彼女は、敵に容赦などしない。


「ほら立て。主命が下った。姐さん達の帰りを、信じて待つぞ」


 ようやく本丸に、普段の明るさが戻った。




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