不穏の影
「刀剣がドロップしない、か……」
はぁ、と俺――都は執務室で一人、ため息をつく。
後輩の椿さんが持ちかけた持ちかけた「刀剣がドロップしない」という相談は、三年間審神者をしていて、見たことも聞いたこともない例だった。
ドロップする刀剣の刀種が限られて困る、という話ならば聞いたことがある。刀剣との相性や霊力の質なんかで、ドロップや鍛刀、顕現出来る刀が限定されてくるのは、割とよくある話だ。
ようは血液型の様なもので、A型の親からB型の子供が生まれないようなものなのだ。
B型の子供を作るという土台がないから、B型の子供が作れない様なもの。
けれど椿さんの場合、それ以前の問題だ。
ドロップ刀剣は、何の干渉もされていない刀である。ただ拾われるのを待つだけの刀。自分の霊力と相性のいい刀剣が見つかりやすいというだけで、それ以外はどの審神者にも平等であるはずなのだ。
だから、ドロップしないこと自体がおかしいのだ。
(人為的なものが絡んでいる可能性がある……)
あくまで可能性の話である。俺の勝手な憶測だ。
椿さんもドロップしたことにはしたのだ。一度きりであったのは、ただ運がないだけか、ドロップというものと相性が悪いからかもしれない。
(聞く限り、ドロップよりも鍛刀の方が相性が良さそうだし)
たった一度の鍛刀で一期一振を呼んでしまったのだ。相当相性が良かったのだろう。
ドロップで厚を呼んだことも踏まえて考えると、粟田口派の刀剣と相性がいいのかもしれない。
(それに、何だか気落ちしているようだったから、余計な情報は伏せておくに限るだろう)
彼女はただでさえ難しい立場にあるのだ、俺の勝手な推測で、不安を与えるのはかえって状況が悪化する可能性もある。
気を取り直して端末に向かう。何か少しでも有益な情報が見つかることを祈って。
「主っ!!」
あわただしい足音を響かせながら執務室に飛び込んできたのは歌仙だった。雅を重んじる歌仙が、雅とは程遠い様子で。
その様子に、焦燥と不安が押し寄せる。
「こ、後輩が……!」
歌仙の悲痛な声に、俺の選択は間違っていたことを悟った。