あいのひと
「ぜ、全員同じ部屋で寝るのですか!?」
私――一期一振――がとある本丸に降ろされたその夜、私はその日一番の衝撃を受けた。
私が降ろされた本丸は「姐様」と呼ばれ、慕われている女性を主としている。だからと言って敬っていないとかではなく、これがこの本丸の敬愛の示し方なのだという。そう呼びたいと思った時に、自然とそう呼ぶようになることを推奨しているようで、無理に呼ぶ必要なないのだそうだ。
この本丸は運営を開始して間もないということで、刀剣の数も私を含めて十一振りしかいない。
全員に一人部屋をあてがうことも可能な人数で、私自身も一人部屋をあてがわれた。
しかし、個人の部屋はあまり使われることはないという。
人数が少ないために、日中はほぼ全員が出払う形となるのだ。
もちろん非番は交代で与えられているが、自主的に手伝いを申し出るものが多いのも要因の一つだという。
人数が少ないからか、この本丸の結束が固く、主に似て勤勉な本丸のようだった。
さすがに夜まで働くというような過剰労働はなく、夜は自由だ。けれど各自与えられた部屋に戻るものは少なく、夕食や会合で使われる広間に残ることが多いらしい。そこで各々が自由に過ごし、就寝となる。
そろそろ寝ようか、という雰囲気が流れ、退出しようとしたその時、主に言われたのだ。衝撃の一言を。
『私たちはいつも寝室用の広間で寝ているのだけれど、君はどうする?』
と。
一瞬、刀剣用の寝室が設けられているのかと思ったのだが、言葉遣いに引っかかりを感じた。
『私、たち……?』
『ああ。全員で雑魚寝だ』
『……はぁっ!?』
思わず叫んだ私は悪くないだろう。
先程も言ったが、主は女性である。言動も顔立ちもあまり女性的なものは感じさせないが、女性であることに間違いはない。夫婦でもない男女が同じ部屋で寝るというのはいかがなものか。
そして冒頭に至る。
驚きのあまり、この女性が主たる人間であることも忘れて怒鳴るような声を上げていた。
「だ、駄目でしょう!? 貴方は女性ですよ!?」
「そんなことは皆理解している。でも、君の考えているようなことは起きないよ」
「確かに無体を働くような方たちでないことは今日会ったばかりの私にも分かりますが……」
「そうだ。それくらい優しい刀達だ。そんな奴らじゃあ、ない。でも、そこじゃない」
私だってあるべき男女間というものは理解しているつもりだ。その上で、こちらから提案したんだ。
そう言って私の目を見据える主は真剣そのものだった。こちらが気圧されるような迫力があった。
私が押し黙ったのを確認して、主は口元を緩めた。
「……すぐに分かるさ」
その笑みが少しだけ悲しげに見えたのは、私の気のせいだったろうか。