龍の舞






 中学の頃、授業の一環で展示会に行ったことがある。それは日本刀の展示会だった。
 刀はかっこいいとは思うけれど、特にこれといった興味はなく、知識なかった。けれど、その展示会でその考えは覆された。
 刀はかっこいいだけじゃない。美しく、恐ろしく、人を惹きつける魅力があった。特に俺の目を惹いたのは大倶利伽羅という刀。
 刀身に掘られた倶利伽羅竜のかっこよさと言ったらないと思う。

 そこから俺は日本刀という世界にのめり込むこととなった。
 そんなときだ。俺に審神者の力があると知ったのは。

 審神者とは「眠っている物の想い、心を目覚めさせ、自ら戦う力を与え、振るわせる、技を持つ者」、「物の心を励起する技を持つ者」のことだ。
 歴史改変を目論む「歴史修正主義者」から歴史を守るため、付喪神「刀剣男士」を率いる主のことである。

 その中に大倶利伽羅という刀があると知って、俺は審神者になることを決意した。
 俺は大倶利伽羅を降ろすことを目標に掲げて努力した。あわよくば仲良くなって、一緒に頑張っていきたい。そんな風に思いながら。
 けれど顕現した大倶利伽羅を見て、俺は考えを改めた。
 一人で決断して、一人で戦って、死ぬ場所すらも自分で決める。強い者にしか出来ないことだ。
 素っ気ない態度をとられるのは少し寂しかったけれど、それ以上に彼の意思を尊重したかった。
 孤高の竜王、かっこいいじゃないか。
 だから、とある審神者の大倶利伽羅に失望したのだ。
 群れを許容し、慣れ合うことを良しとする大倶利伽羅に。
 そんなのは大倶利伽羅ではないと。孤高ではない竜王など認めないと。彼がそこに至った道のりを想像することすらせずに、頭ごなしに否定したのだ。
 けれど俺は、そのことをひどく後悔することとなる。
 政府から打診を受けて参加した亜種刀剣男士の性能を測る模擬戦闘。その亜種刀剣男士というのが件の大倶利伽羅であったのだ。
 俺は大いに動揺した。ほんの一ヶ月程前まで、その在り方以外はごく一般的な大倶利伽羅であったはずではないか、と。
 俺の心情を置き去りにして進む演練の最中、彼が姿さえも変わった理由の一端に触れることとなった。
 彼はそうなりたくてなったわけじゃない。人が彼の在り方を歪めてしまったから、そうならざるを得なかったのだ。
 彼が最初から亜種であった訳ではないのなら、無理に歪められた己を許容することが出来ただろうか。答えはきっと否だ。
 だから彼は今、姿すらも変えることになったのだ。


(―――謝らないと)


 きっと彼にとどめを刺したのは自分だから。
 俺の醜い嫉妬が、彼を傷つけたのだから。




5/6ページ
スキ