明るい方へ
三時間が過ぎた。姐様とともに書類仕事をしていれば、あっという間の時間だった。
各自仕事を振り分けられていた薬研や国広たちも、早々に仕事を終わらせたり、作業を中断して全員が広間に集まっていた。
姐様が初めて行った鍛刀で、誰が降ろされたのか、みんな気になって仕方がないようだった。
「一体誰が降ろされたのでしょうか……?」
「三時間って言うからには太刀だろう」
「いやいや、れあ度の高い打刀の可能性もあるぜ? 和泉守とか同田貫とか」
「蛍丸も三時間だったはずだ」
「資材数350で来るのか?」
一体誰が降ろされたのか。それを予想する声は明るい。
前任のように珍しい刀剣が来なかったからと言って腹いせをするような人ではないと分かっているから、みんな楽しげだ。
薬研や五虎退も楽しげで、これだけで鍛刀に賛成してよかったと思えるから、姐様って本当にすごい。
ぱたぱたと軽やかな足音が聞こえ、全員の意識がそちらに向く。
すらりと開いた襖の向こうから、嬉しそうな姐様が顔を覗かせた。
年相応に顔をほころばせた姐様に、よほどいい刀が来たのだろう、と俺達の顔も緩む。そして、姐様に次いで現れた姿に、俺達は息を飲んだ。
「さぁ、お披露目だ。紹介しよう。一期一振だ」
目の覚めるような空色に、午後の陽ざしを思わせる黄金の瞳。
携える太刀の立派なこと。
「ご紹介に預かりました、一期一振と申します。どうぞよろしくお願いいたします」
胸に手を当て、頭を下げる優雅なたち振る舞い。
それを前に、一瞬の静寂。次いで絶叫。
「「「い、一期一振ぃぃぃいいいいいいい!!?!?」」」
絶叫する俺達の隣で、こんのすけが白目をむいて卒倒するのが見えた気がした。
「ちょっと待ってくれ! 姐さんは三時間って言ってたって言ったじゃないか!?」
混乱のまま、国永が叫んだ。容赦なく肩を揺さぶられて、がくがくと揺れる首が痛い。
確かに姐様は三時間ほどかかると言って、それを国永達に伝えたのは俺だ。
鍛刀結果が気になるだろうから、それに合わせてみんなが集まれるように。
「あっ」
三時間「ほど」かかる。姐様はそう言っていた。
三時間二十分かかる鍛刀時間の「二十分」の部分は、姐様の中で省略されてしまっていたらしい。それに気付いて、俺は顔を覆った。
俺のほかにも、姐様と一番長く過ごしている三振りも、そのことに気づいたらしい。
「姐さんの中で二十分は省略されたってわけか……!」
国永も俺と同じように顔を覆った。
それを受けてすべてを悟ったらしい長谷部が、涙目で叫んだ。
「情報は! 正確に報告してください!!!」
「す、すまん。以後気をつける……」
困惑しつつも気まじめに頷いた姐様に、俺達はこぞって脱力した。