慈悲の魔物
命を軽んじるわけじゃない。すべてが等しく尊いもので、すべてが等しく輝いている。
雨水の一滴も、風に揺れる木々も、大地を照らす太陽も、生まれてくる子供も、死にゆく老人も、命を奪った罪人でさえも。
それに優劣が付けられない。
乞われたならば砂の一粒だって救い上げよう。望まれたならば乳飲み子も同胞も、一切の戸惑いなく滅ぼそう。
だってすべてが同じなのだ。どれも同じ重さしかないのだ。
そうであるならば、何を得ても同じで、何を亡くしても変わらない。
何を得ても同じだけの喜びしか得られず、何を亡くしても同じだけの悲しみが生じる。
すべてが等しく尊くて、すべてが等しく眩しくて。故にこそ、すべてが同じく無価値なのだ。
だから私は、特別が欲しかった。彼らのように、命を捧げても良いと思えるような“特別”が。
だから呼び声を待っていた。私を望む声を待っていた。“自分を特別にして欲しい”と願う声を、その渇望を。
ジャミル・バイパー。私の主よ。
君は私の望みであり、私は君の願いである。
だからというわけではないけれど、頑張る子は好きだから、その頑張りに見合うだけの報酬を、私が与えてあげようと思うんだ。
君が望むなら、世界だって壊そうか。