慈悲の魔物






 命を軽んじるわけじゃない。すべてが等しく尊いもので、すべてが等しく輝いている。
 雨水の一滴も、風に揺れる木々も、大地を照らす太陽も、生まれてくる子供も、死にゆく老人も、命を奪った罪人でさえも。

 それに優劣が付けられない。
 乞われたならば砂の一粒だって救い上げよう。望まれたならば乳飲み子も同胞も、一切の戸惑いなく滅ぼそう。

 だってすべてが同じなのだ。どれも同じ重さしかないのだ。
 そうであるならば、何を得ても同じで、何を亡くしても変わらない。
 何を得ても同じだけの喜びしか得られず、何を亡くしても同じだけの悲しみが生じる。

 すべてが等しく尊くて、すべてが等しく眩しくて。故にこそ、すべてが同じく無価値なのだ。

 だから私は、特別が欲しかった。彼らのように、命を捧げても良いと思えるような“特別”が。
 だから呼び声を待っていた。私を望む声を待っていた。“自分を特別にして欲しい”と願う声を、その渇望を。

 ジャミル・バイパー。私の主よ。
 君は私の望みであり、私は君の願いである。
 だからというわけではないけれど、頑張る子は好きだから、その頑張りに見合うだけの報酬を、私が与えてあげようと思うんだ。
 君が望むなら、世界だって壊そうか。




5/30ページ
スキ