姐さんがツイステ世界でSAN値直葬される話
姐さんがツイステ世界でSAN値直葬される話
鏡に吸い込まれ、気を失ってしまう。
目を覚ますと棺の中に入れられており、NRCの生徒として数えられている。
冷静を装っているが姐さんは内心大荒れ。
☆
グリムの炎で火傷を負う。
それを学園長が治してくれるのだが、魔法なんて知らないため、恐怖を覚える。
火傷を一瞬で治した?
不味いな。
ただの人間がそれ程の力を使えるということは、私など一瞬で殺せてしまうだけの力を持っているということに他ならないじゃないか。
しかも予備動作なんて殆ど無かった。
魔法に無知な私では、いつ魔法が発動したのかすら分からない。
☆
黄泉竈食ひを恐れてご飯を食べない。
☆
学生でなくていい。
少しでも早く帰りたい。
だから学んでいる時間が惜しい。
そんな事をしている暇があるなら一刻も早く。
☆
学園長がラギーに依頼して、心の声が聞こえるようになる魔法薬をぶっかける。
それで心の声が聞こえるようになるのだが、それを聞いてSAN値直葬される。
ちなみに誰も姐さんを女の子だと気付いていません。
「すいません、大丈夫ッスか!? 怪我とかしてないッスか!?」
「……ああ、怪我はない」
この液体はなんだ?
粘度がある。明らかに水じゃない。薬か?
不味いな。この世界のものが私の体に害を及ぼさないとは限らない。
口に入らなかったのは幸いか。
「……え?」
「どうした? どこか痛めたか?」
いや、私より彼だ。
見たところ怪我らしき怪我はないが、足を捻ったりしていないだろうか……。
「えっと……お、俺に怪我はないッス! そ、その、掛けちゃった薬も、体に害はないッス! えっと……そう! クリーム! ただのボディクリームらしいんで!」
「そうか」
怪我がないなら良かった。
しかし、ボディクリーム? そんなものまで作るのか……。
異世界ともなると、やはりこちらの常識は通用しないものと考えるべきだな。
しかし、彼は何なのだろう? 獣の耳に尾が生えている……。動いているところを見ると飾り物じゃないな……。
こちらの世界ならば妖のような存在と判断出来るが、人語を解しているし、攻撃的でない所を見ると、こういった存在も普通に存在する世界なのか?
服もこの学園の制服のようだし、学園長や先生方も奇抜な人……人、なのだろうか?
まぁ、こういう世界なのだろう。魔法なんて、奇跡のような力もあるのだし。
「あ、あの、き、着替えとか……」
「あ、」
そう言えば持っていないな。
しかし、調達するにしても金もないしな……。
いや、その前に水も電気も通っていなかったよな、オンボロ寮。いくら何でも、名前の通りすぎないか?
「き、着替えとシャワー! 洗濯機も! 貸すんで!!!」
「え? しかし、いいのか?」
「俺が悪いんで!!!」
いい子だなぁ。
ああ、しかし、シャワーって、個室だろうか?
寮のお風呂が大浴場みたいな作りだったら詰むぞ?
幸い誰にも気付かれていないが、流石に裸を見られたら女だとバレるだろうし……。
「お゛っ……!?」
「ん? どうした?」
☆
たった一年程前の事なのに、日常がこんなにも遠い……。
学生時代の私は何をしていたのだったかな……。
☆
フロイドに抱きつかれて締められる。
「…………っ!」
な、んだ、この力……っ! 人間の腕力か……!?
苦しい! 苦しい! 苦しい!
息が、出来ない……!
死ぬ! 殺される!!!
―――ミシッ
あ、折れ…………、
「っっっ!?」
あ…………?
あ? ああ、離してくれたのか……。
今のは危なかったな……。
「あ、あの……」
「ん?」
「その……く、苦しかった…………?」
ああ、心配してくれているのか。
まぁ、彼にとっては戯れのようだったし、私が苦しがったのに驚いたんだろう。
しかし、これではっきりしたな。
彼らは、遊び感覚で私を殺せる。
ほんの戯れ。ただのじゃれあい。
けれど私の骨は軋んで、もう少しで折れる所だった。
彼が男性だからということもあるかもしれない。
人間の基準そのものが、こちらとは何もかも違うのかもしれない。
こちらの人間は、そう簡単に同じ生き物をへし折るなんて出来ないし。
苦しかった?
ああ、苦しかったよ。
でも、言える訳ないんだよなぁ……。
だって、この程度で痛め付けられるような存在なんて、あまりにも丁度良過ぎるじゃないか。
帰る場所は異世界で。
待っている人はこちらには居なくて。
何の力も後ろ盾もない。
だから何をしたって文句を言う者は居ないし、死んだって誰も困らない。
むしろ、その方が学園に取っては都合が良いのかもしれない。
私一人の生活費を捻出するのも大変な程、この学園は経営難にあるようだし。
だから、悟らせるな。
私が弱いと知って、どう反応するか分からないのだから。
「いいや? いきなりの事に驚いて、大袈裟に反応してしまっただけだよ。気にする程の事じゃないさ」
「折れたりしてない? 何か、思ったより脆そうっていうか……」
脆い。脆い、かぁ……。
男性には敵わないが、女性の中ではかなりゴツいというか、鍛えている方なんだがな……。
私でこれなら、他の女性なんて今のでへし折れていたんじゃないか?
私もいっそ、女である事を告白した方がいいのだろうか?
だが、この世界の女性の扱いが分からない。
こちらのように、男尊女卑の可能性もある。
女性の立場が弱い世界だったら、私はますます死に近づいていく。
性別は聞かれるまで黙っていよう。
聞かれても誤魔化そう。
私は人一倍悪意に疎いのだと、人よりずっと警戒しなければ気付けないと、そう言われて来ただろう?
世界は悪意に満ちている。
一瞬でも気を抜けば、あっという間に足元を掬われる。
何もかも失ってしまう。
偏見の目で見ろ。
私を守ってくれる者は存在しない。
全てのものが私を害する敵だと思え。
ここは戦場だ。
道理のきかない戦場だ。
逡巡こそが命取り。
引けば敗北。臆せば死。
弱みを見せれば殺されるものと思え!
「「「…………………………」」」
「………………あのさ、」
「ん? どうした?」
「…………もしかして、女の子だったり、する……?」
………………バレた?
何故だ? 体に触れられたからか?
いや、結構筋肉あるぞ、私。
いや違う。馬鹿か、私は。今は誤魔化す方が先決だろうが。
「…………よく、間違われるんだ」
「…………そっかぁ」
「ああ、気にしているんだ。あまり指摘しないでくれると嬉しい」
「……あの……女の子に酷いことしてごめんなさい」
うわぁ、凄い顔色だな……。
というか、女の方で断定されてしまったんだが?
思惑と思い切り逸れてしまったんだが?
落ち着け。
どうしよう。女だとバレた。
冷静になれ。
私はどうなる?
ここは男子校だ。女だとバレたら排除される可能性がある。
学園長は学園の評判を気にしているようだったし、女だとバレたら追い出されてしまうだろう。
いや、幸いにも気付いたのは彼だけだ。
学園長も先生方も私の性別を知らないし、彼だけなら誤魔化せる。何か、何か言わなければ……。
落ち着け。生き残るために頭を回せ!!!
「あー、やっぱりそうだったんだな!? ずっと気になってたんだよな〜!!!」
「えっ」
「それな!!!」
「は?」
「でも、男のふりしてるってことは、何か事情があるんだろ? 絶対誰にも話さないから、大丈夫だぞ!!!」
「え、いや、待ってくれ。何故、私が女だと? どこでわかった?」
「え………………っと……、その…………骨で!!!」
…………骨?
あ、骨格か。それは隠せないな!
しかし、数人とは言え、バレてしまうとは……。
木の板でも挟むか?
「あ、あと! 多分、何人かにはバレてると思うぞ!」
「えっ」
「獣人とか、鼻がいい奴とかな!」
「ポムフィオーレとかは見た目を気にしてる奴多いし、ポムフィオーレ生にもバレてると思った方がいいぞ!」
………………まぁ、私の命を握っている学園側にバレなければいいか。
でも、口止めはしないとな。
学園から追い出されたら、元の世界に帰る方法を見つける所か、生きる事さえやっとになってしまう。
戸席も何もない私では、働き口も見つけられないだろう。
そうなったら稼ぐ方法も限られてくる。
手っ取り早いのは身を売ることだな。
……出来れば、したくないが。
「口止めなら俺に任せてよ! 俺そういうの得意!!!」
「僕も手伝いますよ、フロイド!!!」
「さっすが、リーチ兄弟!!!」
「よっ! 指定暴力団オクタヴィネル!!!」
「今言ったやつ誰〜? ちょっとそこ座れ???」
「ぎゃあ! ごめんなさい!!!」
☆
慣れるな。
奪われるのは当然じゃない。
失うのは当たり前じゃない。
それは理不尽で、とても許される事ではないと心得ろ。
無くした時の悲しさを。
踏みにじられた屈辱を。
決して、決して忘れるな。
この激情は、敵の首を落とすその時まで。
胸の内で燻られせ、存分に育て上げておけ。
鋒を向けていることを悟らせず、必ず殺せる間合いに入るまで。
何、反撃されたら骨を断てばいいだけのこと。
腕の一本くらいくれてやれ。
足の一本くらい捨ててやれ。
命以外の全てを差し出す覚悟を決めろ。
首を落とされたりしなければ、案外何とかなるものだ。
私の勝利条件は、生きて、本丸に帰ることだ。
☆
命をかけて勝利して、家族ともう二度と会えない事を引き換えにして手に入れた彼ら。
彼らまで失ったら、私には一体何が残ると言うんだ。
☆
「敵の喉を突き刺した時の、あの重たい感触を、今でもはっきり覚えてる」
☆
「人間は、儚いからこそ美しい」
☆
「私が居ない間に奪われたりしないだろうか。私の命よりも大切な、私の刀が」
☆
3章が終わって、姐さんが女の子バレ、審神者バレした後。
契約? 代価? 人魚は一体何を欲する?
ああ、嫌だ。疑いたくない。彼らだって、こんな風に思われていると知れば、きっと傷付くだろう。
こちらでの人魚の扱いが分からない。人と同じように扱えばいいのか? それは彼らにとって屈辱ではないか? そもそも人と同じ尺度、人と同じ価値観か?
セイレーンの伝説を見るならば、欲するのは人肉だ。歌声に魅了された船人達は喰い殺され、人骨が山を成したという。
その可能性も捨て切れないことを念頭に置いておけ。
腕は手入れのために必要だ。目も必要だ。彼らが見えなくなるのは困る。
腎臓ならどうだろうか。一つくらい無くなっても大丈夫だと聞く。
いや、待て。何を保身に走っているんだ?
私は決めただろう? 命以外の全てを差し出してでも、必ず彼らの元に帰るのだと。
「「「…………………………」」」
「…………あの、」
「ああ、すまない。少しぼーっとしていた。何だろう?」
「契約、などと大それた事を言っていますが、僕たちはまだ学生の身。結べる契約などたかが知れています。だから、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
「そう、なのか……」
私の知る人魚は伝説上の生き物だ。神話や物語の中で生きるもの。
例え、実際に存在していたとしても、人には理解出来ない領域外の存在。
どのような能力を持っているかなんて分からない。
その上、こちらの住人は魔法なんて奇跡が使える。
人魚で、魔法使い。私の尺度で測る事など出来ない存在だ。
でも、こちらでは普通に生きている。当たり前のように人に馴染んで、学生をしている。
そういう風に、扱って大丈夫なのだろうか?
「あ、もしかして、俺がぎゅーってして痛い思いさせちゃったから、痛い事されると思ってる? ごめんねぇ、もうあんな事しないから、大丈夫だよ?」
「いや、君が謝る必要はない。君に私を傷付ける意図は無かったんだろう?」
「……うん」
ああ、優しいな……。
得体の知れない私など、恐怖の対象でしかないだろうに。
疑いたくないなぁ……。
全部、言葉の通りに受け取ってしまいたい。
人を疑うのは、酷く疲れるし、心が、痛いんだ。
けれど、駄目だ。それでは駄目だ。
悪意の芽は、どこに潜んでいるか分からないのだから。
「そ、それでですね、結んで欲しい契約というのは『貴女の攻撃手段』を担保に『自己防衛以外で貴女に攻撃しない』というものです」
「……うん?」
「僕たち人魚にとって、女性を傷付けてしまうというのはとても恐ろしい事なのです。絶対にあってはならない事なのです。両親からも、そういう教育を受けていまして」
「けれど、僕たちも安心が欲しい。だから、貴女にこちらの知らない攻撃手段があるのなら、それを提示して、それを行使しない事を約束して欲しいのです。その代わり、こちらも貴女を攻撃しない事を約束します」
海の生物の中には雌雄を変更出来るものも居たはずだが、種類によっては性別はとても重要視されるものなのか?
それとも、自然界的な考えで、種の存続を第一に考えているという事だろうか? それならば確かに雌の存在は大事だが……。そうなると別の意味で危険なのでは?
いや、そもそも種族が違うのだから、種の存続という意味でなら、私を使うメリットはない。興味本位で手を伸ばされる可能性はゼロでは無いが、命が無事ならば安いものと考えるべきだな。
…………もしかして、身体を作り替えるような魔法も存在するのか?
いや、これは置いておこう。
しかし、攻撃手段など、己の手足以外に無いのだが、両手足を寄越せという事だろうか?
それとも、護身用に隠しているナイフの存在がバレたか?
「魔法の様な攻撃手段を持たないのなら、暴力を振るわない事を条件にしても構いませんよ」
「防犯用とか護身用のやつも除外していいよ〜」
……心苦しいが、ナイフは隠し持たせて貰おう。
とにかく、彼らは女性を大切にする種類の人魚、という認識で良いのだろう。何せ契約書まで用意したのだから。
「分かった。こちらの攻撃手段は己の手足を使った暴力のみだ。魔法のような特殊な能力は持ち合わせていない」
「それから、契約を結ぶ前に聞きたいのだが、この契約は君と私の間にのみ有効なものだろうか?」
「有効範囲はここに名前を書いた人物全てです。僕は勿論のこと、ジェイドとフロイドも名前を書くつもりですよ」
「そうか……」
「他には?」
「私は魔法というものに理解がない。魔法を掛ける素振りを見せられたら、咄嗟に防衛行動を取ってしまうかもしれない。その場合は契約違反になるのだろうか?」
「その場合は話し合いを持って解決しましょう。未知のものは好奇心と同時に、恐怖心も運んできますからね」
「……ありがとう」
こんな感じで心の声がダダ漏れな姐さんがSAN値直葬されている様を見せつけられて、デデニー男子が白目を剥く話。