君の声が聞こえる






「いやぁ、2人とも、お疲れ様!助かったよ!」


そう言ったのは赤いジャケットに金髪の男、ジャック・ウォーカー――ジャッキーである。
彼の肩には、マナフィの事件を経て、相棒になったぺラップがいる。
ぺラップは得意の物まねで「たすかったよ!たすかったよ!」と楽しそうに鳴いている。


「いえ!困った時はお互い様ですよ!」
「ジャッキーさんこそ、お疲れ様です」


サトシとシンジの言葉にジャッキーは苦笑した。

ジャッキーが2人に出会ったいきさつはこうだ。
最近、ホウエンにて密猟が多発しているという情報をキャッチし、トップレンジャーであるジャッキーが密漁者を捕まえるべく出動したのだ。
しかし、その先で、自身が追っていた密漁者を追いかけているサトシたちと遭遇。
目の前で起こっていることを黙って見ていられない性分の2人と協力し、無事ポケモンの解放と密漁者の捕獲に成功した。

本来ならば、一般人を巻き込んではいけないのだが、彼ら2人は全自動トラブル回収機と名高いトラブルホイホイである。
事件に巻き込まれ、解決した数は、そこいらのレンジャーでは太刀打ちできないチートコンビである。
むしろ助けられることは少なくなく、トップレンジャーのプライドなんてあったもんじゃない。
プライド?そんなもの、とっくの昔にどぶに捨てたよ。
前に同僚のレンジャーがそう言って遠い目をしていたのを、ジャッキーはよく覚えている。


「本当にありがとう。あとは俺たちレンジャー協会に任せてくれ」
「「よろしくお願いします」」
「おねがいします!おねがいします!」


解放したポケモンたちとジャッキーに別れを告げ、2人は山道を下る。
日が赤くなり、影が山の斜面に伸びている。


「もうすぐ日が暮れるな。どこかに野宿できる場所はないかな」
「横穴でもあったら楽なんだがな」
「だな~」
「・・・・・」
「シンジ?」
「・・・町だ」


シンジが、山の谷間を示す。
山の谷間にぽっかりと穴をあけたような空間に、小さな町があった。
西日と山の影でよく見えないが、それは確かに町である。


「本当だ!町だ!」
「この距離なら、日が落ちる前につけるな」
「速く行こうぜ!ピカチュウ、シンジ!」
「ぴかっちゅう!」
「あ、おい!」


シンジの手を握り、サトシが坂道を駆け下りる。
シンジも呆れたように溜息をつき、サトシと並ぶために速度を上げた。






























「着いた~!」


シンジの予想通り、街には夕日が沈む前につくことができた。
むしろ、サトシとともに全力疾走したおかげで、予想よりも早く着いたと言える。
それなりに距離があったにもかかわらず、2人の息は全く上がっていない。
最初こそ人間かと疑っていたピカチュウだが、もうすっかり慣れ親しんだ光景であるため、何の違和感も持たずに彼はサトシの肩に飛び乗った。
慣れとは恐ろしいものである。

町は小さいながらも活気があった。
もう夕方であるにもかかわらず、通りにはたくさんの人が集まっている。
しかし、にぎやかというよりも、騒がしいと表現するにふさわしかった。


「・・・?何でこんなににぎやかなんだ?」
「・・・停電でも起こったんじゃないか?」
「え?」
「街に明かりがついていない」
「え?あ!」


夕方になれば、大抵の家が明かりをともし、街灯が光る。
しかしこの町、そんな明かりが一つもない。
停電が起こったとなれば、この騒がしさも納得がいく。














『――い、』














「・・・?」


ふと、声が聞こえた。
誰かに呼ばれたような気がして、シンジが背後を振り返る。
しかしそこにはいつまでたってもともらない街灯をいぶかしげに眺めている老人がいるだけだった。


「(・・・空耳か?)」
「?シンジ?どうしたんだ?」
「いや・・・何でも、」


















『こわい』       『くらいのはいやだ』         『たすけて』

   『こわい』      『こわいよ』         『たすけて』

         『くらいよ』      『だれか』

『いやだ』                  『こわい』      『だれか』 
              
               

               


              『だれかたすけて』




















「――っ!!!」


突然聞こえた声に、シンジはとっさに耳をふさぐ。
それでも、頭の中に響く声は、いつまでたっても鳴りやまない。


「シンジ?おい、シンジ!」
「っ!」


サトシに名を呼ばれ、我に返る。
サトシとピカチュウの不安げな表情を見たときには、脳に聞こえてきた声は消えていた。


「(今の声は・・・?)」
「大丈夫か?シンジ」
「ぴーかちゅ~・・・」
「あ、ああ・・・」


時折、声が聞こえることがある。
サトシとともに旅を始めてから、聞こえるようになったものだ。
その声の正体が『伝えたいことがあるポケモン』の声だと気付いたのは、崖から落ちそうになっているキレイハナを助けた時だった。
『助けて』と『ありがとう』の声が、確かに聞こえたのだ。


「(今の声も、そうなのか・・・?)」


不安げにあたりを見回した時だった、


「発電所でポケモンたちが暴れてる!」


1人の男性が叫んだのは。
どうやら走ってきたらしい男性は肩で息をしていた。


「何だって!?」
「発電所はどこですか!?」


サトシとシンジが駆け寄り尋ねると、男性は息が荒いまま答えた。


「発電所はこの街の外れの山のふもとにあるが・・・まさか行く気か!?」
「ありがとうございます!」
「おい・・・!!」


男性の言葉を聞き、シンジがすぐに走りだす。
急に走りだしたシンジを追い、サトシも走る。
置いていかれそうになりながらも、遅れまいと必死に走る。


「シンジ!どうしたんだよ、急に!」
「聞こえたんだ」
「へ?」
「声が聞こえたんだ」
「まさか・・・ポケモンの声が?」
「ああ・・・。くらい、こわい、たすけて、と。発電所でポケモンが暴れているのと、何か関係があるかもしれない」
「じゃあ早く発電所に行こう!」
「ああ」


2人はうなずき合い、スピードを上げ、風のごとく走った。




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