VSモブ
『シンジVSモテる奴こそ至上だと思っているモブ』
「ねぇ、あの人かっこよくない?」
「わ、ホントだ~」
街行く女達が俺に注目している。頬を染めて女達が俺に釘づけになっている。
それは気分がいい。しかし、お前らのようなブスには興味がない。
だが運がいい。今日の俺は機嫌がいいんだ。不細工な女達に笑顔を振り前いてやるくらいには。
俺が一つ微笑みを落とすと、女達は悲鳴をあげて頬を染め上げる。それを男たちが、悔しそうに見ていた。
もてない男はかわいそうだ。男は顔で決まる。顔の造詣が崩れているというだけで、人生が決まってしまう。
とくにあいつ何かそうだ。何をするでもなくピカチュウなんて言う平凡なポケモンと戯れている男。
平凡な黒髪にくせ毛。ブラウンのこれまた平凡な瞳。頬には何やら傷のようなものまである。
ああ、かわいそうな奴。冴えないってだけで負け組だ。人生、女にもててこそのもんだ。
(お、)
俺より少し年下の少女の集団。タイプの全然違った5人組。
顔はまぁまぁ。俺から声をかけてやってもいいってレベルだな。そこいらで俺を見てきゃあきゃあ騒いでる女達よりまともな部類だ。
男どももその少女達を目で追っていた。
あの少女の集団の視線を奪ってやったら、きっと男達は悔しげに顔を歪ませるだろう。それは最高に愉快な光景だ。
「ねぇ、君達。○○ってレストラン知らない?」
「え? あ、すいません。私たち、この街は初めてで……」
「あ、私知ってます。あの角を左に曲がってすぐですよ」
「ありがとう。でも迷わないか心配だから、案内してくれるかな? そのレストランで何かおごるよ?」
笑みを浮かべて、ウインクもつける。これで落ちない女はいない。
けれど予想に反して、少女達は申し訳なさそうに眉を下げた。
「ごめんなさい、私たち、人を待たせてるんです」
「あ、もうすぐ待ち合わせの時間だよ!」
「急がなきゃ!」
「ごめんなさい! それじゃあ!」
「え、あ、ちょ、おい!」
俺の笑顔に落ちない女がいる、だと? ありえない!
まぁ、よく見たら顔もあんまりよくなかったし、ブスはセンスも残念なんだ。むしろ断られてよかったかもしれない。
少女達は俺の後ろを駆け抜け、待ち合わせ場所へと駆けていく。その先にはさっきの平凡な男がいて、俺は眼を見開いた。
「ごめーん! 遅れた―!」
「おー、やっと来たか」
「ごめんね、サトシ」
「いいけど、シンジは?」
「用事があって少し遅れるって」
ありえないありえないありえない!
俺に落ちなかったくせにあの平凡な奴のところに行くだと!?
ああ、そうか。あの5人組は身の程をわきまえた奴らなんだ。平凡な容姿同士で仲良くやってるわけか。
「なぁ、あの子可愛くねぇ?」
「声かけてみっか?」
「馬鹿、相手にされるわけねぇだろ」
男どもの視線が5人組から逸れる。5人組の時の比ではない視線が注がれている。
俺もつられてそちらを見れば、そこには紫の美しい髪の少女がいた。涼しげな眼もとにそそられる。
上玉だ。俺と釣り合う美しい女だ。
「ねぇ、君。今暇かな?」
少女の行く先を阻むように前に立つ。すると少女は足を止め、俺を見上げた。
周りからはさえない男どもから悔しげな視線が注がれている。それに気分が上昇する。
「……私、ですか?」
「そう、君」
声もなかなかいい。涼やかで心地いい音色だ。
「……人を待たせているので、」
そう言って少女は俺の脇をすり抜ける。彼女の行く先もさっきの5人組と同じ平凡な男のもとで、俺は慌ててその腕を引き留めた。
「あんなやつのところに行くのか!?」
「は?」
「あんな女を侍られている奴のところに!」
「ああ、あれか……。あれは侍らせているわけでも、侍っているわけでもない。慕われているんだ」
慕われている? あんなさえなくて、もてそうにない奴が? ありえない!
「例えそうだとしても、あんな奴に君はもったいない! あんな奴より俺の方がイケてるし、絶対モテる!」
「もったいないかどうかは私が決める」
少女は嘲笑するように笑った。
「お前にこそ、私はもったいないだろう?」
嘲笑すらも美しい少女の言葉に、俺は膝から崩れ落ちた。
+ + +
(モテるというだけで男の価値を測るな)
膝から崩れ落ちた男を鼻で笑ってやる。
モテるか否かの勝負でも、お前はサトシに負けている。サトシはお前と違って、見てくれでモテるわけじゃない。その内面に惹かれるから、心の底から惚れられるんだ。顔にしか興味がない女共にもてるのとは訳が違う。
それに、サトシは顔だって、そこそこに整っている方で、お前が思っているよりも、女の目を集めている。サトシの旅仲間レベルの上等な女達を侍らせるくらいのことはできる。
まぁ、サトシはそんなことはしないのだが。
旅仲間の女達と楽しげに話すサトシの元に向かう。サトシも女達も楽しげで、私も早くその中に交じりたいと思わせる。
心の底からサトシを慕う彼女たちの中で、サトシの隣に立ちたい。
「あ、シンジ!」
「すまない、待たせたな」
「ううん、全然!」
嘘だ。本当はかなりの時間を待たせたはずだ。けれどそれをおくびにも出さず、サトシは笑って見せる。
私がきただけで先ほどとは比べ物にならないくらいの笑みを見せたサトシに、私も自然と笑みが浮かぶ。
私は未だに「負け」を引きずっている男を見やった。
確かにお前は見た目はいいだろう。けれど、男として、人としてサトシに勝てるとは思わない。
そもそも、勝手にサトシと自分を比べて、勝手に負けているようなお前と、サトシを比べることすらおこがましい。
(ああ、いや。見た目でもこいつの方が勝っているな)
先程私はサトシをそこそこ整っている、と称したが、その造形は美しいと言えるだろう。
普段は力強くたくましい笑みを浮かべている顔の相好を崩してとろけるように笑う様は愛らしい。
何一つとして、お前が勝っているものなどない。
勝手に比べて勝手に破滅した男に、私は一つ、笑みを落とした。