コンテストマスター
「優勝おめでとう、サトシ!」
ムラサキカップはサトシの優勝で幕を閉じた。
合流した仲間たちは真っ先にサトシの健闘を湛えた。
「サンキュー!」
サトシが嬉しそうに笑えば、シトロンたちも嬉しそうに笑った。
会場に残っている人数は少なくなってきている。スタッフも片づけを始めたため、サトシ達は外に向かって歩き出した。
「でも、最後までバトルできなかったのは残念だったね」
ユリーカが眉を下げて言った言葉に、サトシも苦笑する。
「しょうがないよ。顔を誰にも見られたくないみたいだったし」
「いつも仮面をつけてたしね」
「でも、一回くらい、素顔が見たいなぁ……」
苦笑したサトシにつられるようにハルカも眉を下げる。ヒカリは残念そうに肩をすくめた。
「いつか見れるといいな。な、ピカチュウ」
「ぴかっちゅう!」
肩に乗るピカチュウの頬をなでると、ピカチュウは大きくうなずいてサトシの手に擦り寄った。
自動ドアをくぐり、眩しい日差しが目に飛び込んでくる。
「そう言えばサトシ、帽子はいいんですか?」
「ん?」
シトロンに尋ねられて、ようやくサトシは帽子をシンジに預けたままだったことを思い出した。――道理で眩しいはずだ。
髪に手をやって、少し考えるそぶりを見せたが、サトシはすぐに笑った。
「いいよ、別に。また会ったときにでも返してもらえば」
そう言って笑ったサトシに、それもそうですね、とシトロンが笑った。
「サトシ、あの人……」
セレナがサトシの肩をたたく。
セレナが示した先には、壁にもたれかかっている紫色の上着を着た少女がいた。
少女――シンジはサトシ達が出てきたことに気がつくと、壁から背を離し、ふらりとサトシに近寄った。
「シンジ、」
短く名を呼ぶと、シンジはぽすりと何かで視界を遮った。
覚えのある感触に、サトシが口元をほころばせる。
「リーグで会おう」
一言。シンジはそう言って、サトシの横をすり抜けていった。
シンジは振り返ることなく、歩みを止めるそぶりも見せない。サトシも振り返らなかった。
「おう!」
シンジの声にだけしっかりと返事を返して、サトシは帽子をかぶりなおした。
そうして、サトシも一歩を踏み出した。
――2人はそれぞれの道をひたすらに歩いて行く。その先にある物を手に入れるまで。