コンテストマスター
『さぁ、ムラサキカップもいよいよファイナルステージ!アジサイリボンをかけて戦うのは――――サトシさんとムサリーナさんだあああああああああ!!!』
――――――――わああああああああああああああああああああああああ!!!
歓声がこだまする。
わんわんと反響する声援。
降り注ぐスポットライト。
心地い緊張感と高揚に包まれる。
――――――――この人に勝てば、シンジと戦える。
サトシはギラギラと瞳を好戦的に輝かせ、ムサリーナことムサシを見つめた。
ムサシも負けじとサトシににらみを利かせた。
『制限時間5分!参ります!!』
「行くのよ、ハブネーク!」
「リザードン、君に決めた!」
ミミアンの声に2人がポケモンを放つ。
ムサシはハブネーク。サトシはリザードンだ。
2人は勝つために自分のポケモンをわざわざ呼びもどしたのだ。
「ハブネーク、ポイズンテール!」
「リザードン!ドラゴンテールで迎え撃て!」
「ハーブネイッ!」
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
ポイズンテールとドラゴンテールがぶつかり合う。
パワーはリザードンの方が上だった。
拮抗を保っていた尾が一瞬ではじかれ、ハブネークが吹き飛ばされた。
「ハブネーッ!」
「ハブネーク!?」
ムサシを超えて壁にぶつかったハブネークに、改めてその技の威力を思い知らされた。
ポイントが削られる。
ムサシが悔しげにうめいた。
「噛みつく攻撃!」
「シャー!」
「かわせ、リザードン!」
「ぐおおお!」
ハブネークの攻撃を、リザードンがひらりとかわす。
またポイントが削られた。
「今度はこっちから行くぞ!切り裂く!」
「ぐおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「ジャンプしてかわすのよ!」
「捕まえて地面にたたきつけろ!!」
「ハーブネェェェ!!!」
「ハブネーク!?」
鋭い爪を避け、リザードンのポイントを削ったものの、尾を掴まれて地面にたたきつけられる。
ハブネークからは悲鳴が上がったが、その瞳の輝きは失われていない。
「ハブネーク!黒い霧!」
「!?」
「ぐおっ!?」
黒い霧が辺りを包む。
何を仕掛けてくるのか、とリザードンがとっさに空へとのがれた。
「ポイズンテール!」
「シャー!」
「気をつけろ、リザードン!どこから来るかわからないぞ!!」
リザードンが羽ばたいても濃霧はなかなか散っていかない。
視界は悪く、同じ黒い体を持つハブネークを見つけることが出来ない。
ゆるりと霧が揺らめいた。
「巻きつく攻撃!」
「ハーブネイッ!」
「!!?ぐおおおおおおっ!!」
いつの間にか背後の、それもリザードンの上を撮ったハブネークがリザードンの体に巻きつく。
締めあげられてリザードンは苦しげな声を上げた。
「何であんなところに・・・っ!そうか、ポイズンテールを使って・・・!」
サトシが悔しげな声を上げる。
リザードンもハブネークを引きはがそうとするが、背後の敵を振り払うことが出来ない。
「そこからさらにかみつく攻撃!」
「ぐぅおおおおおおおっ・・・!」
「リザードン!!!」
形勢が逆転した。
ポイントも大幅に減り、ハブネークの優勢となった。
時間も残り半分。
サトシの顔に焦りが浮かんだ。
「リザードン、振り払え!」
「ぐおおおおおおおおおおおおおおお!」
「絶対に離すんじゃないわよ!!」
リザードンが大きく翼をふるうもハブネークは噛みついて離れない。
サトシが歯を食いしばった。
「リザードン!地球投げで振り払え!」
「ぐおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
リザードンが天井まで飛びあがる。
いきなりの急上昇にハブネークは苦しそうにうめいた。
ぐるりと円を描くように宙を飛び、地球投げのモーションに入った。
「行けぇ、リザードン!!!」
「耐えるのよ、ハブネーク!!!」
リザードンが地を目指して急降下に入った。
円を描いた遠心力とスピードに、ハブネークは耐えるように歯を食いしばった。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
咆哮を上げ、リザードンが地面のぎりぎりまで降下した。
しかしハブネークは離れる様子を見せず、リザードンはフィールドの少し上で滞空した。
『おおーっとぉ!地球投げ不発――――――――っ!サトシ選手、ポイントを大きく削られ大ピーンチ!』
ミミアンの実況にポイントを確かめると、リザードンのポイントは半分を切っていた。
地球投げのパワーを使ってもハブネークは離れる様子を見せない。
もう一度やって見ても結果は同じだろう。
ムサシの期待にこたえようとハブネークは必死に食らいついている。
これがバトルならば何度でもチャンスはあるが、これはコンテストバトルだ。
時間もなければポイントもない。
「(一体どうすれば・・・っ!)」
時間はもう残り少ない。
サトシが奥歯を噛み締めた。
「ぴかっちゅーう!」
ピカチュウの声援が聞こえる。
腰につけたボールもカタカタと揺れ動き”負けるな”と言っているように感じられた。
「(そうだ・・・。俺はシンジとバトルするんだ・・・。こんなところで負けられない・・・!でも、もう時間もない・・・っ!!)」
「ぴっかぁ!ぴかちゅう!!」
「・・・ピカチュウ?・・・っ!そうだ!!」
焦燥にかられ、余裕をなくしていたサトシの顔が一変する。
突破口を見いだしたサトシは、不敵な表情で顔を上げた。
「リザードン!天井に向かって火炎放射!その場に炎をとどめるんだ!」
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
リザードンが素さまじい炎を吐く。
その火力に、会場は一気に熱を帯びた。
『これはすごい火炎放射だあああああああああああ!サトシ選手、一体何を仕掛けてくるのか――――――――!』
炎がうずを巻き、巨大な火柱を作り出す。
その美しさに観客や審査員から感嘆の声が上がった。
「その中に飛び込め!」
「なっ・・・!?」
ムサシが目を剥き、観客からはどよめきが起こる。
しかしリザードンはサトシの指示に何のためらいもなく火柱の中に飛び込んだ。
「ハーブネェェェ!」
「ハブネーク!!!」
あまりの熱量にハブネークから悲鳴が上がった。
リザードンは火柱の中を突き進んでいった。
炎に耐えられなかったのア、ハブネークがとうとう牙を離した。
リザードンの体に巻きついているのはもはや執念だった。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
リザードンが火柱を抜け、炎を纏って姿を現した。
ふらりとハブネークの頭が揺れ、ゆっくりと巻きついていた胴体が離れて行く。
そしてついにハブネークは眼を回しながら墜落して行った。
ビ――――――――ッ
『タイムアーップ!一進一退の攻防を制したのはサトシ選手のリザードンだあああああああああああ!!!』
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
――――――――わああああああああああああああああああああっ
ミミアンの宣言に、リザードンがまとっていた炎を散らしながら雄叫びをあげる。
勝ち鬨の声に会場が沸き立った。
「やったな、リザードン!俺たち優勝だぜ!」
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
リザードンが咆哮とともに炎を吐く。
嬉しそうなリザードンに、サトシも笑った。
「ハブネーク・・・」
「ハブネ・・・イ」
ムサシがハブネークのそばに膝をつく。
やけどを負ったハブネークは悔しげに顔をゆがめていた。
「あんたはよくやったわ。無茶させたわね。戻って休んでなさい」
「ハブネイ・・・」
ムサシがハブネークをボールに戻し、リザードンと戯れてるサトシに歩み寄った。
「優勝おめでとう」
「ありがとうございます!」
「でも、ここからが本当の勝負よね」
ムサシの視線が一人の人物をとらえる。
優勝を勝ち取ることが出来た者には任意でコンテストマスターへの挑戦権が与えられる。
このコンテストに参加している者たちは誰もが知っていることだった。
そして長年の付き合いであるムサシはサトシの性分をよく理解し、その挑戦を確実に使うであろうことを確信していた。
白い仮面をつけたコンテストマスターを見つめるムサシに、サトシは深くうなずいた。
「ま、精々がんばんなさい」
「――――――――はい!」
ムサシはゆるりと手を振って行った。
それと入れ替わるようにして、コンテストマスター・シンジュことシンジがサトシのそばに立った。
「どちらが勝ってもおかしくはない素晴らしいバトルでした。優勝おめでとうございます」
「ありがとうございます!」
「見事な大逆転でした。炎を纏うなんて、よく思いつきましたね?」
称賛の声にサトシが笑う。
そして炎を纏う発想について尋ねると、強気な表情を見せた。
「一次審査でエレキボールに10万ボルトを纏わせたことを思い出したんです」
「それでリザードンに炎を纏わせることを思いついたんですか?」
「はい!」
微笑みを湛えていた口元が、ニィと持ち上がる。
白い仮面の下で、シンジが闘志を漲らせて目をぎらつかせた。
『それではコンテストマスターのシンジュ様より、優勝のサトシさんにアジサイリボンの贈呈です!』
「ディア~」
ドレディアがケースに飾られたアジサイリボンを運んでくる。
青紫色のリボンは小さいながらも美しい。
ケースを受け取り、シンジがサトシにリボンを差し出した。
けれどサトシはそれを手で制して止めた。
「その前に、バトルをお願いします」
「――――――――・・・受けてたちます」
『おおっと!サトシさん、シンジュ様への挑戦権を使用するぞ――――――――!?』
――――――――わあああああああああああああああっ
会場が沸き立つ。
リボンを持ったドレディアがフィールドの外に出る。
サトシとシンジが位置についた。
『ルールは二次審査と同じ!タイムアップ、ポイントがゼロになった時点、またはどちらかが戦闘不能になった時点で試合終了だあああああああああっ!それでは参ります!!』
「行くぞ!」
「来い!」
2人がモンスターボールを放った。
今、念願のバトルが始まる。