コンテストマスター
間もなく一次審査通過者が発表される。
サトシ達は控室には戻らず、廊下に設置されたモニターで、セレナたちとともに結果発表の瞬間を待ち望んでいた。
『長らくお待たせいたしました!一次審査結果発表です!』
ミミアンのアップがモニターに映し出される。
いよいよ、二次審査に進める上位8名が発表される。
『厳正な審査の結果、一次審査を勝ち抜いた上位8名は・・・こちらです!』
画面いっぱいに8人の顔が並ぶ。
顔をしかめて食ういるようにモニターを見つめていたサトシ達の顔が、みるみる輝いた。
「「「やったあああああああ!!!」」」
サトシ、ハルカ、ヒカリの3人が、見事一次審査を勝ち抜いた。
「おめでとう、3人とも!」
「二次審査もがんばってね!」
「おう!」
「負けないんだから!」
ユリーカたちの応援に笑顔で返事を返し、3人はそれぞれ拳を握った。
ハルカとヒカリはアジサイリボンをゲットするために。
サトシはシンジュとバトルするために優勝を目指す。
普段交わらない道を歩く彼らだが、この時ばかりは“ライバル”だった。
「悪いけど、2人にリボンは渡さないから」
ぴりり、と肌を刺すような気配に、ハルカとヒカリが息をのむ。
笑っているけれど背筋を這う寒気に、口元がひきつる。
サトシは“ライバル”にむけるその目を、ハルカ達に向けていた。
「俺、どうしてもシンジュさんとバトルしたいんだ」
そう言って笑ったサトシに、ヒカリ達はグランドフェスティバル以来の緊張を感じていた。
サトシ相手に油断はできない。
彼は自分たちよりもずっと長く旅をしていて、自分たちとは比べ物にならない経験を積んでいる。
新人だった頃、自分を導いてくれたのは彼だ。
一瞬でも隙を見せれば、全部持って行かれる。
自分たちの得意とするコンテストでも、それは同じだ。
なにせ、このコンテストの一次審査を一位で通過したのは、彼なのだから。
+ + +
二次審査、コンテストバトル一回戦。
サトシvsハルカのバトルだ。
ハルカは自分のパートナーであるバシャーモを繰り出し、サトシは彼のポケモン最強と名高いリザードンを繰り出した。
サトシはできる限り、その地方でゲットしたポケモンを使おうとする。
他地方でゲットしたポケモンを使おうとするのはリーグ戦などの絶対に負けたくないバトルの時だ。
(もちろんどのバトルも全力だったし、その時の本気を出していた)
サトシの本気具合がうかがえ、控室で観戦していたヒカリさえも、口元をひきつらせた。
2人のバトルはあっという間に決着がついた。
スカイアッパーで先制を取ろうとしたのだが、バシャーモを上回るスピードでドラゴンテールを繰り出し、バシャーモを宙に打ち上げた。
宙に放り出された体をとらえられ、地球投げを決められたバシャーモは、戦闘不能へと追いやられた。
バトル開始、わずか10秒の出来事だった。
二回戦はサトシとヒカリのバトルだった。
ここでもリザードンの実力はいかんなく発揮された。
ヒカリの繰り出したマンムーの冷凍ビームを切り裂くで封じ、吹雪を火炎放射で押し返し、マンムーにダメージを与えた。
そのあとも何とかダメージを与えようと奮闘するも、リザードンに舞うように避けられ、ヒカリは一方的にポイントを削られた。
そうして一気に距離を詰められ、ドラゴンテールを脳天に食らったマンムーは眼を回し、ヒカリは敗北したのである。
そして次の対戦相手、キャンディ・ムサリーナことムサシは戦慄していた。
「(ただでさえジャリボーイが参加するってだけでも予想外なのにっ!!!)」
決してハルカやヒカリは弱くない。
リーグに出ても、それなりの成績は残せるであろう実力を持っている。
幾度となくバトルを繰り広げたムサシは、その実力を身にしみて知っている。
けれど、そんな彼女らを意に介さずあっさりと倒してしまうサトシに、改めてその実力を思い知らされた。
自分では勝てないことはわかっている。
けれども、ムサシの頭に、あきらめるという文字はなかった。
「(あがくだけあがいてやるわよ!)」
拳を握りしめたムサシは、ファイナルステージの舞台へと足を踏み入れた。