コンテストマスター
そしてやってきたコンテスト当日。コンテストにエントリーしたサトシたちは控室にてコンテストの開始を今か今かと待ち望んでいた。
暗いステージに1つだけ証明がつく。
スポットを当てられた一点には今大会の司会・ミミアンが立っていた。
『トレーナーのように自由気ままに西へ東へ、旅から旅へ。そうして開くはムラサキカップ・・・』
物語を聞かせるようなささやかな声で話すミミアン。
語りかけるような声に、会場が静まり返った。
ぱっと眼がくらむようなまばゆいスポットライトがステージを照らし出した。
『今回は紫陽花の美しい街、ヨヒラタウンでお送ります!』
――――わああああああああああああああああっ
声の調子を上げたミミアンに、会場のボルテージが上がる。
盛り上がりを見せる会場に、ミミアンが口角を上げた。
『このムラサキカップで見事優勝したコーディネーターさんには、このアジサイリボンを贈呈いたします!』
そう言って言葉とともにモニターに映し出されたのは青紫色のリボンだった。
紫陽花の花を模した銀に、青紫色のリボン。
ブローチなどのアクセサリーにもなりそうな、美しいリボンだ。
そのリボンを見て、コーディネーターたちの目の色が変わった。
ハルカやヒカリも例外ではなく、闘志を燃やした瞳が力強く輝いている。
『そしてこちら、本日も優しく厳しく審査してくださるのは、大会審査委員長のコンテスタさん!ポケモン大好きクラブ会長のスキゾーさん!ヨヒラタウン・ポケモンセンターのジョーイさん!そしてそして――――・・・』
審査員たちを紹介し、また証明が落ちる。
会場も控室も騒然とした。
ぱっと5つのエナジーボールが宙に浮かぶ。
普通のエナジーボールとは違い、月のように輝いている。
そこに桜色の花びらが舞う。
エナジーボールの光を受け、緑いろの光を帯びている。
感嘆のため息が漏れるほど美しい。
けれどもそれだけでは終わらない。
花びらがエナジーボールに突き刺さり、エナジーボールが破裂した。
ちらちらと花びらとエナジーボールの光が会場全体に広がった。
満天の星空にも似た光景に、歓声が上がる。
またステージのスポットライトが輝き、また違った輝きを見せ、会場のボルテージはすでに、これ以上ないほどに盛り上がっている。
『「紫陽花の君」「紫の貴公子」と呼ばれるは彼か彼女か。正直、私もかの人の性別を知りません。その仮面の下にどんな麗しい顔が隠されているのか。否、わからないからこそ美しい!その仮面の下にはたくさんの夢が詰まっている!我らがコンテストマスター・シンジュ様の登場です!』
――――わああああああああああああああああっ
スポットライトがつくと同時に現れたシンジュに悲鳴にも似た声が上がる。
単価が運ばれるシーンが一瞬だけ写っていたため、失神者が出たのだろう。
シンジュが胸に手を当て、頭を下げる。
そうして、うっすらと口元に湛えられた笑みが映ると、控室でも悲鳴が上がった。
『初めまして、カロスの皆さん。こんにちは、コーディネーターの皆さん。カロスでコンテストを開くのは初めてで、とても緊張しています。けれどコーディネーターの皆さんは、そんなプレッシャーに負けず、素晴らしい演技を見せてくれることでしょう。楽しみにしています』
美しい笑みを湛えるシンジュに、控室でも失神者が現れた。
会場で生でその笑みを見ている客席では、一体何人の失神者が出たことやら。
サトシとピカチュウが口元をひきつらせた。
「はぁ・・・シンジュ様カッコイイ・・・」
「さっきのエナジーボールと花びらの舞も凄くきれいだったし、やっぱりシンジュ様は最高かも!」
ハルカとヒカリがうっとりとモニターに映るシンジュを見つめる。
うっすらと頬を染めるその姿は恋する乙女にも見えた。
それを見て、これは確かに失望されたくないとか考えちゃうよな、とサトシが苦笑した。
『さぁ、審査委員が出そろったところでエントリーナンバー1番!張り切ってどうぞ!』
『はぁい!キャンディ・ムサリーナちゃんで~す!』
ステージ奥のカーテンが開き、特徴的なメガネとツインテールをした女性が現れる。
その女性に見覚えがあるサトシたちは眼を見開き、予想外の強敵に気を引き締めた。
少しでも油断したら足元をすくわれる。
ムサリーナはマーイーカとバケッチャを使い、サイコキネシスでシャドーボールを操るなどして、エスパータイプ、ゴーストタイプらしさを発揮し、なかなかの評価を受けていた。
「さすがムサリーナさん・・・」
「ええ・・・。あの人は優勝候補の1人だわ・・・」
「あの人のポケモンもよく育てられてるよな」
そのあともコンテストは続く。
皆一様にレベルが高く、控室のコーディネーターたちの表情は険しい。
その緊張が伝わっているのか、ポケモンたちも不安そうだ。
場慣れしているハルカたちは平静を保っているが、その表情は余裕のあるものではない。
このコンテストは参加者は100を超えている。
そのうち、二次審査に進めるのは上位たったの8名。
門は限りなく狭い。
「もうすぐ私たちの番ね」
「じゃあ、サトシ。私たちそろそろ行くから」
「おう」
ハルカとヒカリが控室を出ていく。
このコンテストは審査を円滑に進めるために自分の10番前になったらステージ裏に集合することになっている。
サトシも春香たちの演技が終わったら、ステージ裏に行く。ギリギリではあるが、彼女たたちの演技は見れるのだ。
サトシは1番最後を飾ることになっている。
1番注目の集まるトリだ。
しかしサトシは、不思議と緊張はしていなかった。
何故だか逆に、気分が高揚している。バトルを始める前のわくわくが心を占める、あの感覚に似ていた。
「(そっか・・・。今日も俺はチャレンジャーなんだ・・・)」
そう、挑戦者。
サトシはシンジに挑んでいるのだ。
バトル同様、コンテストでも自分を認めてもらうために。
「ピカチュウ、絶対、優勝しような」
「ぴかっちゅ」
もちろんだ、と相棒が肩の上で鳴いた。
『続いてはエントリーナンバー98番!どうぞ!』
『エネコ、アゲハント!ステージ・オン!』
ハルカはエネコとアゲハントを繰り出した。
アゲハントの翅の美しさと、エネコの愛らしさで会場をものにした。
先程まで浮かんでいなかった笑みが浮かんでいる。
自分は自分のせい一杯をやろうという気持ちが伝わってくる。
堂々として、ハルカらしさが出ていた。
ハルカはエネコとアゲハントにフリスビーを投げ合わせ、仲の良さをアピールした。
エネコの猫の手で繰り出された銀色の風でフリスビーを高く打ち上げ、アゲハントの蜘蛛の糸でキャッチし、ハルカの元へと返し、フィニッシュを決めた。
何が出てくるかわからない猫の手を使う度胸が高く評価され、ハルカは満面の笑みを浮かべた。
『続いてはエントリーナンバー99番!どうぞ!』
『ポッチャマ、ミミロル!チャーム・アップ!』
ヒカリはボールカプセルを使い、紫のハートのシールを張ったらしく、紫のハートとともに2匹が飛び出してきた。
まず2匹はバブル光線を冷凍ビームで凍らせ、螺旋階段を作り出した。
続いてうず潮にメロメロを組み合わせ、メロメロを浮わ代わりにミミロルがうず潮に乗り、2匹は氷の階段を上った。
そして頂上から飛び降り、華麗な着地をフィニッシュとして決めた。
ヒカリも2匹の愛らしさを存分に引き出せていたとおほめの言葉をもらい、嬉しそうに笑っていた。