真白の微笑み
サトシとシンジはカノコタウンへと続く道をゆったりとした歩調で進んでいた。
2人の手は離れまいとするようにつながれており、そんな2人を見て、サトシの肩でピカチュウが嬉しそうに笑っている。
最愛の人と手をつなぎ、嬉しそうな相棒に囲まれ、サトシは幸せそうに笑っていた。
「サトシ、」
「ん?」
「イッシュを回ったら、そのあとはどうするんだ?」
こてん、と首をかしげてきょとりとした目で尋ねるシンジにサトシの頬がさらに緩む。
どこまでも愛らしい恋人に笑みをかたどらずにはいられない。
自分でもわかるほどに熱い視線。
透き通った彼女の肌など、ぐずぐずに溶かされてしまいのではないだろうかと、ありえもしないのに思ってしまった。
彼女が溶けてしまわないように行く先を見つめ、サトシは言った。
「イッシュを回り終わったら、デコロラ諸島を通ってゆっくりとカントーに帰ろうと思うんだ」
「デコロラ諸島か・・・。いいんじゃないか?」
「でも、そのあとは何も考えてないんだよな。次はどこに行こうかなぁ・・・」
空を仰ぎ、次の行き先を考える。
そんなサトシの手を少し強く握って、シンジがサトシの気を引いた。
「シンジ?」
「・・・私も一緒に連れて行ってくれるか?」
「・・・!!」
眉を下げ、不安げな表情でシンジがサトシを見上げる。
正直に言えば、シンジは不安だった。また置いて行かれてしまうのではないか、と。
自分に何も知らせずに、またどこか遠くへ行ってしまうのではないか、と。
そんなシンジを見て、サトシは少し驚いたような表情をしてから、優しげに微笑んだ。
「もちろん!」
そう言ってうなずくと、シンジは笑った。
大輪の花がほころんだような笑みだった。
花を愛でるようにシンジを愛したい。
サトシは花弁をなでるかのようにシンジの日に照らされた輝く髪をなでた。
「シンジはどこか行きたいところはないのか?」
「特には・・・。でもお前と一緒ならどこへでも行きたい」
「・・・!!!」
シンジの涼やかな目元が化粧を施したかのように赤く染まっている。
サトシの、シンジの髪をなでる手が止まった。
サトシは叫び出したいような、頭を抱えてうずくまりたいような、なんとも言えない感覚を覚えた。
「(ああ、もう、可愛すぎ・・・!!!)」
思わず顔を覆ってしまったのは仕方がない。
またシンジをどうにかしてしまいたいという欲があふれてくる。
それを首を振って何とか払しょくさせ、サトシは肩に乗るピカチュウを見やった。
「・・・ピカチュウ。シンジが危なくなったら、ちゃんと止めてくれよ?」
「ぴーかっちゅ」
任せてよ、というように鳴いたピカチュウに、サトシは満足げにうなずいた。
それから、不思議そうに自分を見つめるシンジに、真正面から向き直った。
「シンジ、俺もシンジとならどこへでも行きたい」
「・・・!」
「シンジと2人なら、俺たちはどこへだっていけるし、何だって乗り越えられる」
嘘いつわりのない心からの言葉。
相手の手を握る指に力がこもる。
「だから、一緒に行こう」
「――――・・・ああ!」
サトシの両手を握りしめ、力強くうなずく。
するとサトシは太陽にも負けないような、美しく、そして力強い光を放つ、人の心をひきつけてやまない、そんな微笑みを持って、シンジの体を優しく包むのだった。