サトシ+ライバル組がチートすぎてモブ達の立つ瀬がない






「俺の話を聞いてくれるだろうか?」


 そう言って至極真面目な表情で俺達を見回したのは幼馴染のAだった。いつもふざけた調子で俺達を盛り上げてくれるムードメーカーだ。
 しかし今日は、ゲンドウポーズを取っているものの、神妙な顔をしていた。


「俺も聞いてほしいことがある」
「僕も」


 Aと同じようにゲンドウポーズでAを見つめたのはBだった。俺たちの中で一番頭がいいはずなのに、Aのおふざけに真っ先に乗っかる残念な男だ。顔もいいのにもったいない。
 その隣で挙手をしたのは小柄で女顔のC。可愛い顔をしているが、怒らせると一番怖い奴。ちなみに”女顔”は禁句だ。
 俺を含めて三人とも、幼馴染に報告したいことがあるらしい。全員が全員、一年に一度あるかないかの真面目顔をしている。
 「俺もだ」と告げると、三人は重々しく頷いた。


「じゃあ、話を切り出した俺から話そう。これは俺がとあるトレーナーとバトルした時の話だ」


 Aはゲンドウポーズを取ったまま、ゆっくりとした語り口調で話し始めた。


「その日、俺は森の中を歩いていた。確か、昼を少し過ぎた頃だったと思う。俺はポケモンたちの技を磨こうと、修行に使えそうな場所を探していたんだ。そして、俺は丁度好さそうな草はらを見つけた」


 いつになく真剣な表情で語りかけてくるAはまるで別人のようだった。大口を開けて、いっそうるさいほど明るい口調で話すAは、この時ばかりは淡々としていて、いっそ不気味なほど大人しい印象を受けた。


「しかし、そこには先約がいた」


 声のトーンが、がらりと変わった。


「その先約のトレーナーも修行しに来ていたらしい。自分のポケモンたち同士でバトルをさせようとしているところだったんだ。それなら、と思ってバトルを持ちかけたんだ。技を磨くのにもいいし、やっぱり実践が一番だと思ってな」


 ただ淡々と自分の考えたメニューをこなすよりも、バトルを行うのが一番勉強になる。
 これはAの持論だが、これは俺も同意する。


「で、相手のトレーナーも俺の申し出を受けてくれて、バトルをすることになったんだけど……」


 ―――瞬殺されました。
 そう言ってうなだれるAに俺たちは戦慄した。
 悔しいことに、Aは俺たちの中でバトルが一番強い。頭の良さだってBに次いで良いし、相性やその時の状況に合わせてポケモンを選ぶ。リーグでも上位に食い込むことが出来る実力者で、そんなAが瞬殺されただなんて信じられなかった。


「しかも相手のポケモンさ、色々と技の威力とか、おかしかったんだよ。まさかバトルで山が削れるなんて思わなかった……」
「「「どういうことなの」」」


 話は黙って聞く、といつもなら礼儀にうるさいBまでもが突っ込んだ。
 意図せずして山が削れる技の威力とは一体……。


「しかもさ、その削った山をグラスフィールドとハードプラントで復元したんだよ、そいつ。グラスフィールドとかハードプラントって草木にも影響をさせられるものなの? 威力が違い過ぎるんですけど!!」


 だん! とテーブルに拳を叩きつけ、Aは頭を抱える。
 グラスフィールドもハードプラントも、そんな技ではなかったはずだ。特にハードプラントは攻撃技であって、回復系の技ではない。そもそも自然に影響を与えられる威力を持つ技を放てるなんて、普通のポケモンではない。それこそ神話で語られるレベルのポケモンだ。Aよ。そいつは伝説とかそっち系のポケモンを使ってはいなかったか……?


「しかもそいつ……後々調べてみたら、今年度のシンオウリーグ参加者だぜ……?」
「何、だと……? 今年度のシンオウリーグはチートと超人しか参加していなかったと噂だぞ!」
「そんな奴とバトルしたのか、お前……!!」
「それならその技の威力も納得だね!」


 今年度のシンオウリーグ参加者恐るべし。
 しょっぱなから驚きの連続で俺たちは深呼吸を繰り返して、次の報告に移った。
 次はBだ。


「これは俺が直接見聞きした話じゃなくて、親父から聞いたものだ。そして、10歳という年齢の定義を見失いそうになった話だ」


 10歳は俺たち4人が数年前に通った道だ。ポケモンをもらってようやく旅に出られるようになる年齢だ。まだ何も知らずにいて、へまばかりしているような、そんな年齢。
 俺たちはひたすらに遊んでいた記憶しかない。もちろん、バトルやジム戦もしていたが。


「俺の親父ってさ、研究員で、特に化石の復元に携わってるだろ? その分野の研究室に、まだ10歳の見習いが入ったらしいんだ」


 Bの父親は、Bが言ったように研究員だ。おもに化石ポケモンについて研究を行っていて、Bはそんな父親に憧れを抱き、研究員を目指している。Bは努力家で頭もいいから、きっとなれるだろう。


「その見習いってさ、トレーナーの時から優秀で、研究員としても優れているらしい。着眼点とか、発想とか、そう言ったものが全然違うって言ってたな」


 Bはゲンドウポーズのまま、首だけをそらせて天井を見た。これはBの癖で、思考を巡らせていたり、上の空になったりしているときによく現れる。
 どこを見ているんだがわからないから、ちょっと怖かったりする。


「それで、その才能に賭けて、煮詰まってたプテラの復元を任せてみたらしいんだ。そしたらさ、そいつ、半年でプテラの化石を復元しやがったらしい」
「「「はい?」」」


 化石の復元はとても繊細な作業で、神経を使う作業らしい。本来なら数年から数十年かかる作業である。まず化石を見つけるところから始まるから、というのもあるが。だからと言って、化石がそろっている状態であっても半年は早い。
 それに、そんな天才が現れたならば世間が騒がないはずがないわけで。少しだけ視線に疑惑を乗せると、Bがどこか遠いところを見ながら息をついた。


「しかもさ、この事実が凄まじ過ぎて、世間から隠されてるんだぜ?」
「「「おぅふ」」」


 特に研究界は大荒れになるだろうな、とBはうなだれた。
 続いての報告はCだ。
 自分も含めてまだ二つも残っているのか、と俺達四人は酷く遠い目をした。


「ファイヤーってさ、いろんな火山を飛び回ってるって言われてるじゃん?」


 Cはポケモン専門のカメラマンを目指している。特に伝説と呼ばれる、極めて珍しいポケモンの。
 けれどそれは簡単なことではなく、色んな街で情報を集めることから始める。そして目撃情報の多い場所に待ち伏せて、伝説のポケモンが来るのを待ち続けるのだ。彼が今までに伝説のポケモンに遭遇したのは一度きり。それも比較的目撃回数の多い移動系の伝説のポケモンだ。彼はそれで満足するでなく、今日も明日も明後日も、伝説のポケモンを追い続けていく。
 そんな中で、前回の近況報告のために、このように一同に会した時、彼はファイヤーの行動周期を割り出すことに成功したと言っていたのだ。次の報告会の時には写真を見せると約束して。


「だからさ、目撃回数とかは伝説のポケモンの中でも結構多い方なんだよね。それでも見れる人は限られているけれど」


 移動系の伝説のポケモンは、同じ伝説に数えられるポケモンの中でも群を抜いて目撃率が高い。それでも、数えられるほどの人数しかいないようだけれど。


「僕もね、その数少ないうちの一人になれたんだけど、僕よりずっと近くでファイヤーを目撃できたやつがいてさ」


 さらりとファイヤーを目撃したという報告を受け、俺達は眼を見開く。まさか生まれて十数年で二度も伝説のポケモンに遭遇できるやつがいるとは思わなかったのだ。それも、俺たちの身内の中に。


「でね、そいつが言ったんだ。『久しぶり。また会ったね』って」


 「また会ったね!?」って叫んだ僕は悪くない。
 そう言ってCは机に突っ伏した。俺達もそろって撃沈した。
 最近のトレーナー怖い。超怖い。山を削るレベルの技を放つポケモンを連れたトレーナーに、10歳にして化石を復元させた天才。伝説のポケモンと親しげな人間。そして、これから俺が語ることになる少年。
 全員の目がこちらを向いている。机に突っ伏したままでこちらを見ているため、顔に影がかかって怖い。俺はゆっくりと顔を上げ、一つ深呼吸をした。


「お前らも知ってるよな? 某少年探偵が訪れた場所では必ず事件が起こる法則」


 俺の言葉に、幼馴染たちも顔を上げた。皆けげんな顔をしているけれど。


「某少年トレーナーは訪れた場所で必ずトラブルに巻き込まれるんだよ」


 俺が遭遇したのは、ピカチュウを連れた少年トレーナーだった。遭遇したと言っても、直接話したわけではない。遠目から目撃しただけだ。遭遇、というと誇張表現になるかもしれない。
 その日、俺はとある街にいた。本当は素通りする予定でいたけれど、気まぐれに立ち寄って、一泊することにしたのだ。そして、事件に巻き込まれた。
 巻き込まれた事件というのは、ポケモンが何らかの理由で暴走して、街中で暴れ出したのだ。初めは一体のポケモンの暴走だったようだが、その暴走が気性の荒いポケモンの本能を刺激してしまったらしく、新たな暴動を誘発させてしまったのだ。
 街に集っていたトレーナーたちが暴走を止めようと躍起になったのだが、うまくいかずに混戦状態に陥ったのだ。それを宥めたのが、最初に述べたピカチュウのトレーナーの少年だったというわけだ。
 俺は離れたところで暴走するポケモンと対峙していたから詳しい経緯は知らないのだけれど、その少年がいなければポケモンたちの暴走を止められなかったのだけは確かであった。


「そんなこと出来るトレーナーがいるのかよ……」
「すげぇ……」


 呆然とした様子で称賛の声を上げたAとBに俺も同意する。よほどのベテラントレーナーでも難しい事態を見事に納めたのだ。街中が彼を称賛していた。もちろん俺も。


「あれ? 何かこんなの前にもなかったっけ? ほら、カロスでさ……」
「ああ。プリズムタワーから少年トレーナーが飛び降りた事件だろ? 確か、ピカチュウがタワーから落ち、て……」


 Cの疑問に答えたBの言葉が不自然に止まる。まさか、とでもいうような顔で俺の顔を見たBは真っ青だった。


「そのまさかだよ。ガブリアスの暴走を止めた少年でした」
「「「この短時間でどんだけ事件に巻き込まれてんだよ、そいつ!!!」」」
「だから言ったじゃん。某少年探偵現象だよ」


 ははっ、と思わず乾いた笑いが漏れる。三人は恐ろしいほどの真顔だった。
 しかもさ、と言葉を続けると、恐怖にひきつった顔がそろってこちらを向いた。


「よくよく思い出してみるとさ、そいつ、アーシア島で活躍した奴と同一人物だったよ」
「「「巻き込まれる規模もちげぇ!!!」」」


 悲痛な声が辺りに響く。
 少年トレーナーたちは世のための活躍と平和と引き換えに、俺たちの心の平穏を奪っていったのだった。




2/3ページ
スキ