時を経て生まれた物
「ピカチュウ、大丈夫か?」
「ぴっかぁ! ぴかぴかっちゅう?」
「俺は平気だ」
紫色の髪の少年――シンジが、黄色のポケモン――ピカチュウを膝に抱え、その毛並みをそっと撫でた。
言葉はわからないであろうに、会話を繰り広げる様は年相応で微笑ましい。微笑ましいのだが、それを納得できずに眺めている者たちがいた。赤髪の女――ムサシと青髪の男――コジロウ。そして額に小判を張り付けたポケモン――ニャースだ。
彼ら三人組は、とあるトレーナーからピカチュウを奪い、更には人質としてシンジを誘拐したのだ。
シンジはポケモンセンターに手持ちのポケモンたちを預けているから、抵抗するすべはほとんど持たない。ピカチュウもシンジを人質に取っているため、抵抗が出来ない。そのため拘束は軽く手首を縛る程度なのだが、シンジもピカチュウも抵抗するそぶりを見せないのだ。ここまで大人しいと逆に怪しい。いつもなら逃げだそうと奮闘するピカチュウと、大人しい気性とはとても言えないシンジが、こんな風に無防備だなんてありえない。
「ちょっと。あんたたち余裕すぎない?」
「サトシが迎えに来るからな」
「ぴかっちゅ」
サトシというのはピカチュウのトレーナーである。ピカチュウを相棒と呼び大切にしている、シンジの最大のライバルである。もちろん彼は来るだろう。それは三人も想定済みである。彼に対抗するためにシンジを人質に取ったのだから、当然だ。
しかし、それはシンジも同じだ。自分が捕らえられた理由も、彼にとって自分が人質として有効かも、全て分かっている。その上でなお、彼は平然としているのである。
「ほら、」
空を見上げたシンジにつられるように、ムサシたちも空を見上げる。日差しが眩しくて目が開けていられない。手をかざそうと手を持ち上げるが、その前に、何か大きなものによって太陽が隠された。――オレンジの体に青い翼のポケモン、リザードンである。
「おーい!」
リザードンの背中から、一人の少年がひょっこりと顔を出す。跳ねた黒髪に帽子を被った少年――サトシだ。
「二人とも大丈夫か?」
「ああ」
「ぴっか!」
「「「だから反応!!!」」」
リザードンが地面に降り、サトシがその背中から降りる。そして捕まっているシンジたちに掛けた第一声に、コジロウ達は思わず声を上げた。
だってあまりにもあっさりしていたものだから、いてもたってもいられなくなったのだ。
「怪我はないか!? とか、無事か!? とか、そう言うのはないの!?」
「反応がゆるすぎるのにゃ!!」
「え? だってお前ら大人しくしてるやつに攻撃したりしないだろ?」
騒いでいた声が、ぴたりと止まる。サトシの不思議そうな顔に、ニャース達は顔を見合わせた。
信頼を寄せられるのは満更でもない。彼らとは不思議な情で結ばれているから。
しかし、自分達が悪の組織であることには変わらない。その悪の組織に信頼を寄せるのはいかがなものか。そして、それを不思議に思わない少年達も。
長い時を経て生まれてしまったもの。これはきっと禁断の絆。
(ならば、自分達は徹底した悪になろう)
「え? 何? 10万ボルトで吹っ飛ばした方がいいの?」
「破壊光線だろ」
「「「どっちもお断りします!!!」」」