気付かないのは君一人
――どうしよう。ヒカリは大いに悩んでいた。旅の節目にマサラタウンで休んでいたサトシをシンオウに呼び出してしまうくらいには。
「どうしたらいいの……?」
ヒカリはサトシを呼び出してなお、悩んでいた。シンジが高い身長にコンプレックスを抱いていることをサトシに言うべきか隠しておくべきかを。
サトシはシンジについて相談があることを伝えるとリザードンすら使ってシンオウに飛んできてくれた。そんな彼ならシンジの悩みを払拭させることが出来るのではないかと考えていたのだ。
しかし、シンジは女の子で、サトシは男の子だ。知られたくないことかもしれないではないか。女の子はデリケートなのだから。シンジはプライドも高いから、余計に。
それに、身長はサトシの方がはるかに低い。ヒカリと変わらないのだから、どうしたってシンジを見上げてしまう。同じ女の子よりも、本来背の高いはずの男の子に見上げられる方が、きっとダメージは大きいだろう。サトシを並ばせるのは、酷なことかもしれない。
「……ヒカリ、シンジと何かあったんじゃないのか?」
「ぴかっちゅう……」
黙ってちゃ分かんないぜ? とサトシが眉を下げて、困った様に問いかける。肩に乗るピカチュウも、同じように眉を下げていた。
うんうん唸っていたヒカリが、口を引き結んでサトシの顔を見た。こうなったら、シンジの悩みは全力で隠し通して相談しよう、と。
「私、シンジを傷付けちゃったの」
「傷つけた?」
「そう……」
ヒカリ自身も、シンジに謝らなければならないと思っている。シンジが顔に出すほど傷ついたのだから、深い傷を負ったはずだ。けれど、シンジはその悩みすら、知られたくないのかもしれない。そうだとしたら、謝罪は更にシンジを傷付けることになる。サトシに話してしまうことは、もっと。
「多分シンジは悩みを持ってるの。そのことで、私がシンジを傷つけちゃって、謝りたいんだけど、もっと傷つけちゃったらどうしようって……」
「もっと傷つける?」
「謝りたいんだけど、もしかしたら、誰にも知られたくなかったことかもしれないの。こうやってサトシに話しちゃうことも、嫌かも知れないことで……」
ヒカリの声が、どんどん尻すぼみに消えていく。あああ、と何とも言い難い声を出しながら沈んでいき、頭を抱える。
きっとシンジは背が高いことが原因で、嫌な思いをしたに違いない。でなければ、あんなふうに傷ついた顔はしないだろう。
謝りたい。けれど謝れない。これ以上傷つけたくない。
サトシならばあるいは、とも考えたけれど、よくよく考えてみれば、サトシは適任とは言い難い。彼の言葉には力があるが、伴わないのだ、身長が。
(せめてサトシの身長がシンジと同じくらいあったらよかったのに……)
他はいい線いっているのに! とヒカリが髪を掻き乱す。そんなヒカリは気付かない。目の前でサトシが落ち込んでいることに。
俺に知られたくない、俺に知られたら嫌、とぶつぶつ繰り返すサトシを、ピカチュウがそっと慰める。
そんな暗雲が立ち込める場所に、明るい声が差し込んだ。
「あれ? サトシじゃん!」
金髪が眩しい少年――ジュンだ。ジュンはサトシとヒカリを見つけると、嬉しそうに駆け寄ってきた。
「「ジュン……」」
「うおっ!? 何でこんなにじめじめしてんだよ? 久々の再会だってのによー!」
罰金だ、と叫ぶジュンに、ヒカリが苦笑する。
(そうそう、せめてこのくらいの身長……)
心の中で呟いて、はたとヒカリが目を瞬かせる。そして、立ち上がり叫んだ。
「そうよ、ジュンがいたじゃない!!!」
「え? 俺?」
「そう、あんたよあんた!」
シンジの中で、ジュンのイメージはそう悪くないはずだ。ライバルとして、最強の座をかけて戦いたいというジュンの言葉に、シンジは頷いたのだから。それに加えて、ジュンは高身長だ。シンジよりも背が高い。この時ばかりはサトシよりも適任に思えた。
シンジに想いを寄せているサトシには悪いが、シンジのためだ。例えジュンがサトシの恋敵だとしても、現在ヒカリの中で最優先されるべきはシンジなのだ。
「ジュン! シンジのために協力して!!」
この時、二人の顔にははっきりとした希望と絶望の色が浮かんでいた。