真白の微笑み
「サトシ・・・シンジ・・・もう行っちゃうの・・・?」
ラングレーが寂しそうにサトシたちへと声をかけた。
隣に並ぶケニヤンも、悲しそうな表情をしている。
「うん。いつまでも引きずっていたくないからな」
「そっか・・・」
サトシの、らしくない微笑みに、ラングレーも同じように眉を下げたまま、笑みを返した。
サトシたちは、このまま旅に出ることを決め、すでに町の出口にたっていた。
彼の表情に未練を感じさせるものはなく、いつもの晴れやかなものだった。
「そんな顔すんなって。俺は大丈夫だから」
「そうだな。私がいるものな」
サトシの言葉にシンジがいたずらめいた笑みを浮かべる。
それにサトシはとろけるような笑みを浮かべ、大きくうなずいた。
「まったく、仲睦まじいこって・・・」
ケニヤンが呆れたような声を出す。
そんな声に反して、表情は穏やかで、眩しいものを見るように目を細めていた。
ラングレーも、微笑ましく2人のやり取りを見守っていた。
「ケニヤン、ラングレー」
「!」
「サトシには、シンジがいる。心配することは何もない」
「博士・・・」
オーキドの優しげな笑みに、2人の表情は一層柔らかくなる。
彼の言う通り、サトシは1人ではない。支えてくれる人たちがいる。そして、最愛の人がいる。
「そう言えば、博士は隣町の空港から先にカントーに帰るんだっけ」
サトシがオーキドに尋ねれば、オーキドはゆっくりとうなずいた。
「わしは研究があるから、お前たちとは一緒に行けん」
「じゃあしばらくはお別れなんだ」
サトシが少し眉を下げ、寂しげな笑みを浮かべた。
けれども、オーキドはさらに笑みを深めた。
「そうなるのぅ。わしは一足先にカントーに帰ってお前さんたちの帰りを待つとしよう」
「じゃあ、言うことは一つだな」
「ああ」
「「行ってきます」」
オーキドは2人そろって言われた言葉にわずかに目を瞬かせた。
しかしすぐの驚いた表情は嬉しそうな笑みに変わった。
「気をつけていくんじゃぞ」
「「はい!」」
元気よく2人が返事をして、大きくうなずいた。
「元気でね、2人とも!」
「またバトルしような、サトシ!シンジも次にあったらバトルしてくれよ?」
「もちろんだ」
「じゃあまたな、2人とも!」
「「またね/またな、サトシ、シンジ!!」」
大きく手を振り、2人は花園の街を旅立っていった。
残された3人は2人の背が見えなくなるまで2人の新たな門出を見守っていた。
* * *
「本当に・・・大丈夫なんですよね?」
オーキドを見送るために反対側の街の出口に来ていたラングレーとケニヤン。
不安げな声で尋ねたのはラングレーだ。
「大丈夫じゃよ。あ奴にはシンジがおるし、すでに手は打ってある」
「手、ですか?」
「ああ。ある人に頼んだんじゃよ。ちと、辛い役目を負わせてしまったがのう・・・」
じゃから、心配せんでいい。
そう言ったオーキドは悲しそうな笑みを浮かべているが、その顔に不安の色はない。
そのことに少しだけほっとして、2人はうなずいた。
「博士の信頼に値する人なら、安心です」
「そうか、それはよかった」
不安の消えさった笑みを浮かべる2人に、オーキドは満足げに笑った。
「では、わしもそろそろ行くとしようかのう」
「!お気をつけて!」
「研究頑張ってください!」
「ありがとう。ではまたな」
「「はい!!」」
年並にあったゆるりとした歩みで歩を進めるオーキドの背中を、サトシたちを見送ったとき同様、彼の背中が見えなくなるまで、2人は手を振り続けていた。