劣等感






 幼い頃から、背は高い方だった。母が長身で、男と並んでも遜色なくて、きっとその血を受け継いだのだろう。
 逆に父はそこまで背は高くなく、いたって平均的で、兄貴はその血を受け継いでいた。兄貴はもう少し背が欲しかったな、と苦笑していた。
 そんな兄貴を見て何度思っただろう。――私がその血を受け継いだらよかったのに。もしくは男だったらよかったのに。

 重ねて言うが、私――シンジは極めて背の高い子供だった。保育園の時から一番小さい奴とは頭一つ分くらい身長が違っていて、上の学年と勘違いされることも多々あった。
 背の順で並ぶ時はいつも一番後ろ。保育園の時から小学校の間、ずっと。
 そして、背が高いと何かと男役に回されることが多かった。
 小学校では男女に分かれてペアを組む授業なんかもあって、その時はたいてい背の順の列で行う。女の方が少なかったから、当然私は男役としてペアを組むこととなった。
 学芸会なんかで劇をやる時も男役をあてがわれた。担任が美術とか芸術が好きで、見栄えを大切にする人間だったのもあるだろうが。
 男扱いも多かったように思う。
 重いものを運ぶ時も、大抵が男よりも上背のある私が任された。そんな私が頼もしく見えたのか、女から告白されたこともある。髪も短かったから、なおさら男に見えたのだろう。
 そんな扱いが嫌で、髪を伸ばしたこともある。けれど私はどうやら父の猫っ毛天パを受け継いでしまったようで、髪を伸ばすと髪が波打ち、天然ウェーブが完成した。
 雑誌で見るような、あるいは自分よりも上の年齢の女性がするような髪型になって気恥ずかしくも嬉しかった。少しは女らしくなった気がして。
 けれど学校でそんな髪形が許されるはずもなく、結局は切る破目になったのだけれど。
 髪を伸ばすのは許されていたが、髪に手を加えることは許されない学校だったのだ。天然ものだったとしても、手を加えたように見える髪形はやはり学校の大人たちからは白い目で見られた。
 父は猫っ毛の天パだったが、母は剛毛に近いけれど真っ直ぐでさらさらとした髪をしていて、それも兄貴が受け継いだ。
 ストレートだったら、学校でも髪も伸ばせたのだが。
 そんな風にどうして私が受け継がなかったのかと首をかしげるほど、兄貴は両親の女性らしい部分を受け継いだのだ。心底うらやましい。兄貴にとってはコンプレックスなのかもしれないが。

 ――旅に出れば、身長なんてちっぽけなものを気にすることはなくなる。そう言ったのは母だった。
 母も幼い頃は背が高かったせいで嫌な思いをしたらしい。私の気持ちはよくわかると言ってくれた。
 旅に出て、いろんなものを見て、いろんな人と出会えば、背の高さなど気にすることもなくなるだろう、と母は笑った。自分より背の高い女性にも出会って、小さいと言われて嬉しかったとか、そう言って私を励ましてくれた。
 だから、旅に出るのがより一層楽しみになった。けれども旅先で出会う同年代のトレーナーは、やっぱり私よりも背が低くて、酷く泣きたい気持ちになった。
 自分よりも長身の奴はたくさんいるだろう。ただ、あまり出会えないだけで。

 そんな中で出会ったライバルも、やっぱり私より小さかった。




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