かわいいもの好きサトシくん






 サトシはどうやら、可愛いものが好きらしい。多分、女である私より。
 サトシはよくピカチュウを可愛いと言って褒める。確かにピカチュウは可愛い。動作とか鳴き声とか、笑顔とか。
 サトシはポケモン全般に対して可愛いだのかっこいいだのよく褒める。特に可愛いポケモン同士で戯れていたりなんかすると、いつも以上に笑顔を浮かべることが多い。
 幼い子供、ユリーカやマサトなんかが一緒に遊んでいたりするのを見て微笑ましげに和んでいることもある。
 デートのときなんかもショーウィンドウなんかを見て「あの服が可愛い」だの「こういう服を着てほしい」と言って服を示す。
 ちょっとした買い物の時も「これなんか似合いそう」とアクセサリーなんかを渡してきたりする。
 少しずれたセンスを持っているかと思えば、こういうときのサトシは驚くほどいいものを選ぶ。一見シンプルに見えるものでも、細工がよかったり、色合いが綺麗だったり。
 多分、目が肥えているんだろう。好きだから、そういうものを見る目に力がつくのだ。
 だからと言って、それ自体が好きなのではない。ただ、可愛いものが好きなのだ。
 だから決して、サトシが可愛いと言って憚らなくても、そこには愛でる以上の気持ちはなくて、嫉妬する必要なんてない。そう、嫉妬する必要なんてないんだ。


「あははっ! 何やってんだよ、あいつら。可愛いなぁ」
「…………っ」


 サトシの視線の先には、サトシが昔一緒に旅をしていた仲間たちがいる。その中には当然女もいて――むしろ女の方が多くて。
 サトシが彼女らを仲間以上に見ていないことはわかっている。姉妹のようだと、本人達すらも認めている。可愛いというのは姉妹を愛しく思う家族愛の様なもので。


(私には可愛いなんて言わないくせに……)


 それでも、自分以外の女を褒めるところなんて見たくないし聞きたくない。


「……そんなに可愛いものが好きかよ」


 ――あ、凄く嫌な言い方をした。自分でもわかるくらいに。嘲笑して、皮肉った。
 嫌な奴だと、誰が見ても思っただろう。けれどサトシは笑顔で私を振りむいた。


「うん、好きだよ」
「はっ、男のくせに女々しいな」


 ああ、可愛くない。どうしてこんな言い方しかできないんだ。
 嫉妬して八当たりだなんて、女々しいのは私じゃないか。


「そうかなぁ。俺、本当に可愛いものが好きなのって男の方だと思うんだ」
「……は?」
「じゃなきゃ女の子を好きにならないだろうし、シンジと一緒にいないって」


 サトシはかすかに頬を染め、はにかみながら言った。


「シンジが可愛かったから、俺はシンジを好きになったんだよ」


 もちろん、見た目だけで選んだわけじゃないけど、と言って、サトシが笑った。


「綺麗な動作とか、思ったことを隠さないで言ってくれる正直さとか、自分が可愛いってことに気付いてない鈍いところとか、挙げていったらきりがないよ」


 俺の仲間に焼餅妬いちゃうところも、凄く可愛い。
 ――ああもう、やめてくれ。それ以上言葉にしないでくれ。歯の浮くようなセリフに、恥ずかしいなんて言う感情では追いつかない。
 蕩ける様な笑みに、顔が熱くなる。
 ――ああもっとちゃんと顔を見ていればよかった。その視線が、私を見て『愛しい』と告げている。
 目は口ほどに物を言う、だって? むしろ視線だけの方がよほど雄弁じゃないか!


「あー、でも、焼餅妬くってことは、不安にさせてたってことだよな」


 あんまりシンジに可愛いって伝えてこなかった俺が悪いんだけど、と言って、サトシが苦笑した。


「シンジに可愛いっていうの、なんか照れるんだよな。気負いすぎちゃってうまく言えないっていうか」


 ピカチュウたちには普通に言えるのになー。
 サトシは曖昧な笑みを消して、しっかりと私を見つめる。


「でも、これからはちゃんと言うから」


 ちゃんと伝えるから。
 そう言って笑うサトシに、私は穴があったら入りたくなった。
 ――恥ずかしいのはこっちの方だ。


(こんなに愛されているのに嫉妬して八当たりをしてしまった自分が一番恥ずかしい!)




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