真白の微笑み






アイリスたちはポケモンセンターにいた。
正確にはポケモンセンターのロビーのソファに座り、顔を青ざめていた。オーキドを怒らせてしまったという絶望感で。
デントたちはオーキドたちがサトシを連れたって庭園を出て行ったあと、しばらく呆然としていた。
オーキドたちが視界から消えてしまったことに気づいたのは、シューティーを心配するケンホロウが声をかけたからであった。
そのためすぐさまオーキドたちの消えて行った方へと走り出すが、その姿を見つけることはできなかったのである。

この町は広い。ヒウンシティに次ぐ広さを持つ自然豊かな街だ。
飛行タイプに頼んで空から探してもらうにも限度がある。
建物内に入られてしまっては探しようもない。
このまま弁解することもできないのか。そんな絶望感が満ち、彼らの周りの空気は重苦しい。

そんな中、アイリスが勢いをつけてたちあがった。


「私・・・もう一度探してくる」


アイリスの言葉に、デントたちが驚いたように目を見開いた。
何を言っているのか、と。この広大な土地でたった1人の人間を見つけることのむずかしさを理解しているのかと、呆れと驚愕をはらんだ目で、シューティーたちはアイリスを見つめた。


「もう一度見つめることが難しいのはわかってる。でも、オーキド博士は私の憧れなの。だから、このままで終わりたくない」
「でも、オーキド博士、怒ってたよ・・・?」


一度は上を向いた視線が、また下を向く。
ベルは今にも泣き出しそうだった。


「オーキド博士が怒ったのは、きっと私たちがシンジを馬鹿にしたからよ。だから、シンジに謝れば、きっと博士は許してくれるわ」


サトシのことはきっと間違い。多勢に無勢を哀れに想ったオーキド博士の口から出まかせ。
そうなってしまったのも、すべてサトシが原因だ。
だってそうだろう?サトシがシンジをライバルと呼んだがゆえに、自分たちは勘違いしてしまったのだから。
そうだ。すべてサトシが悪いのだ。


「オーキド博士がカントーに帰っちゃう前にシンジに謝って誤解を解かなきゃ!」


アイリスの言葉にシューティーたちが強くうなずきたちあがる。
オーキドがあこがれの存在なのは、自分たちも同じなのだ。
彼に認められたい。けれどもまずは自分たちの誤解を解かなければ。認められるのは、そのあとでいい。
間違ってしまったのはサトシが原因であると、証明しなければ。

それこそが間違いであることに気づきもせず、彼らはポケモンセンターの出入り口に向かってさっそうと歩く。


『――――シンジ――』


今日で聞き慣れてしまった名前が、耳を打つ。
その声が耳に入ったのは、どうやらカベルネだけだったようで、足を止めたのは彼女1人だった。
名前が聞こえてきた方を見て、彼女は眼を見開いた。


「――――カベルネ?」


ふと、気配が減ったような気がして、デントが振り返る。
すると呆然と立ち尽くす少女が目に入る。
コテツたちが立ち止まったデントと同じようにカベルネを振り返り、訝しげに彼女を見つめた。

立ち止まっている時間など、自分たちにはないというのに。一刻も早くオーキドを見つけて誤解を解かなければならないのに。
誤解は時間がたてばたつほど解け難くなる。
何としてでも今日中に誤解を解かなければならないのだ。
それなのに、一向に足を進めようとしないカベルネにいら立ちが募る。
シューティーがカベルネに声をかけようとした時、この中で唯一彼女の視線を追っていたコテツがあ、と声を上げた。
今度は何だ、と一同が一斉にコテツを見て、同じ方向に向いて硬直する2人の視線をようやく追った。


『ドラピオン、バトルスタンバイ!』


2人の視線の先にあったのはスクリーンだった。
ポケモンセンターでは時折、過去のイッシュリーグやドンバトルのような大きな大会の映像を流すのである。
ただでさえその人気ゆえに手に入りにくいリーグ戦の映像である。他地方のものなどとんと手に入らない。
しかし今、放送されているのは会場から察するに他地方のものだ。
どうやって手に入れたのかは定かではないが、それが流れている。
それもオーキドが推薦するトレーナー、シンジのバトルだ。
ポケモンセンターを利用しているトレーナーたちの視線はスクリーンに釘づけだった。


「凄い・・・」


誰ともなく、呟いた。
ぽつりと小さく口をついて出た言葉だったが、それは一同の心情を素直に表す言葉だった。


「シンジさんってあんなすごいバトルが出来る人だったんだ・・・」
「相手の人もレベルが高そうだね。あのシンジさんと互角に戦ってる」


シューティーたちもスクリーンに釘づけだった。
彼らはオーキドを探すという目的を忘れ、その映像に見入っていた。

レベルが違っていた。戦略も駆け引きも、技の威力も。
これは本当に同じリーグ戦なのだろうか?イッシュリーグでは決勝でさえ、ここまでのレベルのバトルは見られなかった。
最初からこのバトルを見ていら少年らのざわめきから察するに、これはベスト4をかけた戦いである。
格どころか、次元が違う。
こんな相手と自分たちはバトルしようとしていたのか?
自分たちはなんと愚かなのだろう。相手の実力も測れずに浅はかにもバトルを申し込もうとしていただなんて!

映像は進み、両者のバトルは激しさを増す。フィールドはえぐれ、爆発が起こる。

そうして、シンジは敗北した。


「嘘でしょ・・・!?あのシンジが負けるなんて・・・!」
「ありえない・・・!」
「一体、どんな相手と戦っているんだ・・・!?」


驚愕の声が上がる。

そうして皆は待った。
勝者が映し出されるその時を。


『勝者――――』







「――――・・・え?」


そうして、映し出された顔と、呼ばれた名前に、彼らは呆然とした。




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