頂からの挑戦状






 その日、ポケモンセンターは騒然としていた。シンオウチャンピオン歴代最強と歌われたシロナが、たった10歳の少年に敗北したのである。
 リアルタイムで中継されていたバトルは、まさに圧巻の一言。
 最初は優勢を保っていたシロナが中盤から押され始め、最後には逆転を収め、勝利をもぎ取ったのだ。――完全にシロナを圧倒して。
 何気なく放送を見ていたトレーナーたちは、チャンピオンの代替わりのその瞬間に、彼らは意図せずして立ち会うこととなったのだ。


『負けたわ。私の完敗。いいバトルをありがとう、シンジ君。――いいえ、チャンピオン・シンジ』
『ありがとうございます。――貴女の意志は、俺が継ぎます』


 酷くあっさりと、けれども確かな覚悟を持って、少年はシロナから冠を受け取った。
 交わされた握手に、会場が沸き立った。――新チャンピオンの誕生を祝すように。
 エキシビジョンを中継していたキャスターたちが一気に少年に押し寄せる。それに淡々と答えていく姿は、子供とは思えぬ貫録があった。
 何かメッセージを、と言われ、少年が伏せていた目をキャスターに向けた。


『……たった一人に向けて、でもいいですか?』


 もちろん、というキャスターの言葉に頷き、少年がまっすぐにカメラを見つめる。その先にいるであろう、その相手を。


『おい、いつまでそんなところで燻っているつもりだ』


 低く、唸るような声で吐き出された言葉に、画面の前にいたトレーナーたちがぎくり、と身を強張らせた。
 先程の冷静な様子は消えさり、激しい激情を湛えた目で、たった一人を射抜く。


『俺はここまで来た。お前もさっさと追いついてこい』


 ――お前の夢はポケモンマスターだろう? だったら、


『まずは俺を倒してみせろ』


 獰猛にぎらつかせた瞳で、不敵な笑みを浮かべる。その言葉を聞き届けた、たったひとりの少年が、彼の挑戦を受けて、同じように瞳をぎらつかせた。


「ピカチュウ。とんでもない挑戦状を叩きつけられたな」
「ぴーかっちゅ」
「そっかぁ……。あいつ、チャンピオンになったのか……」
「ちゃあ~」


 膝に座る相棒の頭をなでながら、サトシがうっすらと笑う。その好戦的な様子に、シトロンたちが息を飲んだ。
 楽しげに笑っているはずなのに、声をかけるのをためらってしまうような威圧を感じ、ただサトシを見つめる。


「明日、絶対優勝しないとな」
「ぴかっちゅう」


 誓いの様に厳かに囁いたサトシは、強者の迫力を湛えていた。
 ――明日のリーグは、荒れる。
 明日に控えたリーグの行方はいかに。




1/1ページ
スキ