ロケット団への評価
「ロケット団ってさ、もったいないよな」
向かいの席に座った青年が紅茶に口を付けた後、何の脈絡もなくつぶやいた。
向かいに座る青年――――――サトシの言葉の意味がくみとれなかったタケシは、わずかに片眉を上げた。
それに気づいたサトシが、タケシの入れた紅茶にもう一度口を付けてから、改めて口を開いた。
「いやさ、ここに来る前にロケット団に会ってさ、思ったんだよ」
あいつらって損してるよなってさ。
そう言ってサトシは愛しげに笑う。
彼の言葉にようやっと意味を理解したタケシが、同じように笑った。
ここ、というのはタケシの経営するポケモンのための病院である。
カントー・ジョウトチャンピオンのワタルからカントーチャンピオンの座を譲り受け、カントーチャンピオンに君臨するサトシは、今でも旅をしている。
チャンピオンに挑戦するためには四天王を倒さなければならないので、挑戦者は少ない。
そのため旅をする時間が確保できるのだ。
ただのトレーナーだった頃よりは帰ってくる頻度が高くなったが、サトシは満足している。
短い旅に節目を付けたサトシは、ポケモンたちの回復のためにタケシの元を訪れるのだ。
現在は昼休憩であるため、2人でまったりとお茶を飲んでいるところだった。
ひとしきり笑ったサトシは、笑った顔のまま言葉をつづけた。
「ムサシはハルカやヒカリも認めるくらい、コーディネーターの才能があるし」
キャンディ・ムサリーナという実力派のコーディネーターの正体がムサシだと判明したのはいつだったか。
眼鏡をはずし、髪を降ろしたところを偶然見かけてしまって、その正体に気づいたのだが、ムサシにこんな才能があったとは知らず、ひどく驚いたものだ。
サトシ達を追いかけずにコーディネーターとして腕を磨けば、トップコーディネーターも夢ではない、と言ったのはハルカとヒカリだった。
酷くおしいことだ、と2人が嘆いていたのが印象的だった。
「コジロウのポケモンも、そこいらのトレーナーやコーディネーターより良い毛並みしてるし、ブリーダーとか育て屋にでもなればいいのに」
「確かになぁ」
コジロウは自分のポケモンを自分以上に愛する傾向にある。
その愛情はポケモンたちの毛並みや艶に現れている。
その美しい毛並みは元ブリーダーだったタケシをうならせるほどだ。
「2人ともバトルの実力だってあるしさー」
ムサシもコジロウも、バトルの経験だって、そこいらのトレーナーより上だ。
特にサトシやタケシなど、その道のトップレベルのトレーナーとのバトルの経験がケタ違いだ。
今では四天王にも劣らない実力を持っているのではないかと言わしめるほどの実力を持っている。
トレーナーとしての実力も申し分ないのである。
「ニャースも頭いいのにさ」
「ああ。ロケット団のメカはほとんどニャース中心だったもんな」
ニャースは頭がいい。
メカなどの機械類に強く、その道の研究界に進めば、大いに貢献できるはずでる。
3人それぞれロケット団という悪の組織に入れておくにはもったいないと思わせる才能があるのだ。
どうしてその道に進まないのだろう。
そう思ったのは一度や二度ではない。
「もったいないよなー」
「ああ、もったいないよな」
才能の無駄遣いというか、宝の持ち腐れと言うか。
サトシ達は苦笑するしかない。
「でも、それが俺たちのよく知るロケット団なんだよな」
突拍子もないことを思いつき、それを行動に移す大胆さと能力がある。
けれども詰めが甘くて、愛嬌があって、憎めない。
愚直と言えるほどにまっすぐで、その姿は夢を追う子供たちのように輝いている。
それが彼らから見たロケット団だった。
――――――ドォン!
「「!!?」」
凄まじい音が聞こえてくる。
少し離れた場所で、木が倒れた音だった。
巨大なストライクのメカが木を切り倒しながらこちらに向かってくる。
噂をすれば影がたつ。
話題の中心にいたロケット団の襲撃だった。
サトシとタケシは顔を見合せて笑った。
「来たな、ロケット団」
「だな」
「じゃあ、あれ聞かないとな」
「お決まりだもんな」
こらえきれない笑いをこぼしながら、サトシとタケシはすう、と息を吸った。
「「一体何なんだ!!?」」
「一体何なんだ!?と聞かれたら!」
「答えてあげるが世の情け!」
もうすっかり耳に染みついた口上が響く。
時折変更されるが、今回は出会った時と同じもの。
これが一番あいつらに合うよな、とサトシが笑った。
「(これがないと帰ってきたって感じがしないし、旅に出たって実感できないんだよな)」
凄まじい破壊音に駆けつけた相棒に、サトシは10万ボルトの指示を出した。
(彼らの襲撃は、もはや日常の一部)