君を愛す






「はい、あなたたちのポケモンはみんな元気になりましたよ」
「「「ありがとうございます、ジョーイさん」」」


 サトシ達はとある町のポケモンセンターにいた。
 ポケモンたちの回復を終え、ジョーイからポケモンを受け取ったサトシ達は自分のポケモンたちが元気になったことを喜んでいた。


「ピカチュウ~、元気になってよかったな~」
「ぴかっちゅ!」


 ピカチュウを両手で抱え上げ、サトシが嬉しそうに笑う。ピカチュウもすっかり元気になり、楽しそうに笑っている。
 そんな2人を微笑ましげに見ていたジョーイが、あ、と声を上げた。


「ねぇ、もしかして、サトシ君?」
「えっ?」


 突然ジョーイに名前を呼ばれたサトシは驚いてジョーイを見上げた。ジョーイはやっぱり、と言って笑い、サトシを待たせてカウンターの奥へ向かった。
 その光景を見ていたシトロンたちが首をかしげてサトシを見つめると、サトシも不思議そうに首をかしげた。


「お待たせ」


 戻ってきたジョーイはにこにこと満面の笑みを浮かべてサトシに笑いかけた。ジョーイの手には控えめだがかわいらしくラッピングされた、所望プレゼントが握られていた。


(ぷ、プレゼントぉ!!?)


 叫び出しそうになったセレナが、慌てて口をふさぐ。
 サトシは差し出されたプレゼントに覚えがなかったらしく、困ったようにジョーイを見上げた。


「えっと、これは……?」
「あなたのライバルって言ってたわ。覚えはないかしら?」
「え……?」


 ライバル、という言葉に、セレナがほっとする。恋人ではないらしいということが分かったからだ。しかし、サトシの表情を見て、セレナは愕然とした。
 プレゼントをくれるライバルに覚えがあったらしいサトシは、赤面していた。ピカチュウのほっぺをしのぐ赤さに、シトロンたちが驚いていた。


「あ、あの、もしかして紫色の髪の女の子ですか!? その子まだ近くにいますか!?」
「ええ、その子よ。でも、おうちの手伝いでカロスに来ただけだそうだから、もう帰ったと思うわ」
「そうですか……」


 ジョーイに詰め寄るサトシに、ジョーイが申し訳なさそうに眉を下げる。目に見えて落ち込んだサトシに、ユリーカたちは更に目を丸くした。


「あの子はライバルって言ってたけど、恋人かしら?」
「えっ!? い、いや、そんなんじゃ……っ!」


 ジョーイのから回を含んだ言葉にサトシが狼狽する。そんなサトシの肩ではピカチュウがよかったね、というように嬉しそうに鳴いている。


「なになに? サトシ、女の子にプレゼントもらったの?」
「え、あ、う、うん……」


 ユリーカがパタパタとサトシに駆け寄る。ユリーカの純粋な瞳にたじろぎながらサトシがうなずけば、ユリーカは眼を輝かせた。


「わあ、すっごーい! サトシがキープしてる女の子?」
「そ、そんなんじゃないってば!」
「お兄ちゃんも負けてられないね!」
「ユリーカ、俺の話聞いてないだろ!!!」


 盛大に顔を赤らめたサトシの顔を見るに、恋人ではなくともただならぬ想いがあることは見てとれる。ユリーカに苦笑しつつシトロンがサトシに「よかったですね」と言えば、サトシは顔を覆ってゆっくりと頷いた。


「開けてもいいかな……」
「サトシが貰ったものなんですから、良いんですよ」
「うん、」


 サトシが丁寧に包装をはがしていく。真剣な表情でプレゼントを開けるサトシに、セレナががっくりと肩を落とした。


(サトシ、好きな人いたんだぁ……)


 けれど、とセレナが前を見つめる。


(まだ、恋人じゃない)


 自分にだってチャンスはある。セレナは己を奮い立たせた。
 セレナが己を奮い立たせたと同時に、サトシが包装を開き終わった。中を見て、サトシが嬉しそうに眼を輝かせた。


「わぁ、グローブだ!」


 出てきたのは黒いグローブだった。手の甲にモンスターボールの上半分のイラストがプリントされている。手首の部分には青と紫のラインが入っており、サトシが目を細めた。優しげに紫のラインをなでるサトシはどこか大人びており、別人のようだった。


「ぴかちゅ、」
「ん? あ、まだ何か……」


 ピカチュウがもう一つ、小さな箱を見つける。そちらも優しく包装をはがせば、今度は驚いたような表情を見せた。


「ネックレスだ……」


 薄い紫の雷マークの可愛らしいネックレスだ。雷マークの他に、小さな青い雪の結晶が重ねられている。飾りが小さく、邪魔になるようなことは無さそうだ。
 サトシへのプレゼントらしからぬものだが、サトシは幸せそうにプレゼントに向かって微笑みかけていた。


「よかったわね、サトシ君」
「はい! でも、何でいきなり……」
「あら、もうすぐクリスマスだからよ。思ってたよりあなたが早く来たから、ちょっと早いけどね」
「あ……」


 すっかり忘れていた、というような表情に、ジョーイが苦笑する。


「恋人じゃなくても、大切な子なら、ちゃんとお返ししなくちゃだめよ?」
「はい! ありがとうございます、ジョーイさん!」
「どういたしまして」


 早速グローブを変え、ネックレスをつけ、サトシがセレナたちを振りかえった。


「ごめん、俺プレゼント買いに行かないといけないから」
「わかりました。買い出しは僕たちに任せてください」
「行ってらっしゃい、サトシ」
「ちゃんとしたもの選ばなきゃだめだよ!」
「ありがとう、みんな!」


 大きく手を振りポケモンセンターから飛び出していくサトシを、ジョーイ達は微笑ましく見送った。
 クリスマス当日、サトシの送ったプレゼントはライバルである少女に届き、その少女をひどく赤面させたという。
 ちなみにそのプレゼントというのが、細かい花の模様の彫られたブレスレットと、その少女に似合いそうだという理由で送られた可愛らしい赤いアネモネの花のコサージュのついた髪留だったそうだ。











 これは余談であるが、サトシは仲間たちの分までプレゼントを買ったそうだ。てっきりライバルの少女にしか買わないと思っていたシトロンたちが街中を奔走してサトシへのお返しのプレゼントを探しまわるのだが、これはまた別のお話。




2/3ページ
スキ