トラブル(対人間)ホイホイなシンジの強盗制圧






「ほら、さっさと歩け!」


投降した強盗たちがジュンサーら警察により護送されていく。
その様子を見送りながら、人質を誘導する時の犯人達の様子を思い出すな、とサトシは一人ごちた。

サトシは現在、シンジとともに事情聴取のためにパトカーのボンネットに座らされていた。
セレナやピカチュウたちは拘束を解いてもらっているため、ここにはいない。
というより、人質たちの証言により、犯人達が投稿した経緯を聞き、自分たちだけが聴取に呼ばれたのだ。
そのためここには2人しかおらず、隣に座るシンジは銃を打ったこともあり、ジュンサーによるお叱りを受けていた。
説教はかなりの間続いており、そろそろ佳境に入るところだ。


「銃を打ったら危ないことくらい、あなたくらいの年齢の子なら分かるでしょう?」
「はい・・・」
「ならどうしてそんな危ないことをしたの!」


先程まで返事をしていたシンジが、等々に黙り込む。
それを不審に思ったジュンサーがシンジの顔を覗き込んだ。
ゆっくりと持ち上がったシンジの顔は、涙にぬれていた。


「だって、だって・・・、殺されるって思って・・・、こ、怖くて・・・!ひっく、ぐす、」


シンジがボロボロと涙を流すのを見て、ジュンサーとサトシはぎょっとした。
ジュンサーは泣かせてしまったことに、サトシは先ほどまでの気丈さとのギャップに。


「あ、ああ、ご、ごめんね?ごめんなさい。怖かったからきちんとした判断が出来なかったのね?もっと早くに助けられなくてごめんね?あなたはよく頑張ったわ?」


ジュンサーがシンジの涙をぬぐいながら、優しく髪をなでる。
シンジはしゃくりあげながらこくこくと頷いた。


「ジュンサーさん!」
「あ、はい!・・・ごめんね、この子をお願いしてもいいかしら?それと聴取は他の人から取るから、あなたたちは帰ってもいいからね?」
「あ、は、はい」


ジュンサーがもう一度シンジの頭を撫で、自分を呼んだ警官の元へと走っていく。
その様子を見送ってシンジに向き直ると、シンジが顔を上げた。
顔を上げたシンジは、もう泣いてはいなかった。


「よし、行ったな」
「え?あ、うん・・・。っていうかシンジ、今泣いてたよな・・・?」
「私がこんなことで泣くわけがないだろう?」


シンジが手を差し出してくる。
その手を見ると、目薬が乗っていた。


「子供だというのはこういうときに役に立つ。少し泣けばすぐに大人に聴取を取ろうと言ってくれるからな」


一体どこまで用意周到なのか。
サトシは気が遠くなるような感覚に陥った。
そんなサトシの気も知らないで、シンジはボンネットから飛び降りた。
それにならって、サトシもパトカーから降りた。


「サトシ。私はプラターヌ研究所に用がある。次に会ったときにでもバトルを申し込む」
「いや、うん、それはいいけど!わかったけど!さっきの何!?強盗制圧しちゃうし、銃ぶっ放すし!何で打ち方とか知ってるんだよ!?」


シンジのあまりの変わり身の早さに、サトシが狼狽する。
言いたいことも聞きたいこともたくさんある。
狼狽するサトシにシンジが呆れたように肩をすくめた。


「何度もこういう場面に遭遇していたらいい加減慣れてくる」
「慣れた!?いつもあんな無茶してるのか!?」
「無茶云々はお前には言われたくないな。大体、あの程度の無茶ならお前だって何時もしているだろう。相手がポケモンか人間か。それだけの違いだ」
「・・・」


サトシが、シンジを抱きしめた。
慣れた、と口にしているが、先程銃を打った右手は、ポケットの中で震えている。
怖くないはずがない。
銃は、人を殺せる。


「・・・怖いって、言っていいんだぞ?」
「・・・わざわざ言わなくても、怖いに決まっているだろう。自分が死ぬことも、相手を殺してしまうことも。銃はポケモンの技よりも威力は弱いが、殺傷力は高いんだ」
「シンジ、絶対俺より無茶してる」
「どこがだ。世界の命運をかけるような場面に遭遇したことはない」
「どうしよう、反論できない・・・」
「しなくていいだろう、本当のことだ」


口が達者なシンジに、口が回らないサトシが勝てるわけもなく、むう、と口をとがらせる。
抱きしめているため、シンジからは見えないが、拗ねたのが空気で伝わったようで、シンジが小さく笑った。


「・・・シンジ、本当に大丈夫?」
「しつこいな」
「だってシンジ、怖いっていう割に、泣かないからさ」
「・・・」


とん、とサトシの胸が押される。
サトシがシンジを離すと、シンジがサトシを見つめて、ニヒルな笑みを浮かべた。


「怖かったと泣く私を慰めたいのなら、お前の胸で泣いてもいいと思えるくらいのいい男になって出直すんだな」


からかいを含んだシンジに、サトシがにやりと笑う。
笑ったサトシの意図を測れずにシンジが首をかしげると、サトシがさらに笑みを深めた。


「そっか、いい男になったら、素直に泣いてくれるのか」
「・・・は?」
「シンジが俺の胸でなら泣いてもいいって思えるくらいのいい男になって出直してきたら、怖かったって泣いてくれるんだよな?」
「なっ、」
「大丈夫、ちゃんと笑顔にするから」


シンジが言ったんだからな?と言外に含めて笑いかけると、シンジは「あ、う、」と言葉にならない声を発して口を開閉した。
目元が赤くなっている。
自分の言った冗談が、ここまで真剣に受け止められるとは思っていなかったようで、シンジは全力で照れていた。
自分の言った言葉には責任持てよ、という意味を込めて目じりをなでると、シンジは更に赤面した。


「おい、冗談もほどほどに・・・」
「や く そ く、だからな?」
「・・・ぅ、」


両手で頬をつかんで目を合わせると、シンジが言葉に詰まった。
顔を赤くしてうろたえるシンジにサトシが笑った。






「サトシー!!」

「お?」
「っ!ほら、仲間が呼んでるぞ。さっさと行ってやったらどうだ」


セレナの声に振り向くと、そこには仲間たちの姿があった。
大きく手を振る仲間たちに手を振り返し、サトシはシンジに向き直った。


「またな、シンジ」
「・・・ああ、また」


一瞬だけ視線を交わらせて、2人はくるりと向きを変えた。
そこからはもう、お互いに振り向くことはしなかった。
自分のライバルは同じカロスにいる。
目指す道は同じ。目標はリーグ優勝。
2人の道が違えることは決してない。
ならば、振り向く必要がどこにあろうか。

2人は自分の道を進んでいった。
すぎた恐怖など、自分の夢の大きさの前には、風の前の塵に同じなのである。





















おまけ

セレナ「あ、あのさぁ、さっきの人、彼女さん?」
サトシ「え?どうして?」
セレナ「だって、強盗に連れて行かれそうになった時も真っ先に反応したし、それに・・・」
ユリーカ「さっき、キスしてたよね!」
サトシ「えっ!!?!?」
シトロン「こ、コラ、ユリーカ!」
ユリーカ「だって、ほっぺた両手で包んでたし、そう見えたんだもん!」
サトシ「ち、違うよ!してないしてない!!」
ユリーカ「そうなの?」
サトシ「うん・・・(いつかはしたいけど・・・)」
セレナ「(よ、よかったあああああああああ!でも、安心しちゃだめよ、サトシはモテるんだから!!!)でも、知ってる人なんだよね?」
サトシ「俺のライバルの女の子だよ!・・・今のところは(ボソッ」
シトロン「サトシのライバルですか!」
セレナ「そうなんだ!(つまりただの友達ってことよね!!!)」
ユリーカ「ふぅん・・・?(本当にそうなのかなぁ・・・)」
サトシ「(うわ、ユリーカにめっちゃ怪しまれてる)」
ピカチュウ「(ユリーカ鋭いなぁ・・・)」



おまけ2

最初はもっとシンジに余裕持たせようと思ったんですけど、幾らなんでもそれは怖いなーと思ったのでやめました。


最初に考えてたネタ↓というかセリフ2つ


「・・・もしかしたら」
「あ?」
「もしかしたら、犯人から銃を奪った人質が、混乱して引き金を引いてしまったのかもしれない」
「何、」
「犯人とのもみ合いで銃が発射されたのかもしれない」
「な、」
「人質の予想外の行動に驚いた犯人が銃を乱射して、仲間を打ちぬいてしまったのかもしれない」
「子供が銃を打ったという事実より、現実味があるでしょう?」


「犯人ともみ合いになって銃が発砲されてしまったのかもしれない」
「そんな事態が、起こり得ないとでも?」




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